・・・ 物理学というものはやはり一つの学問の体系であって、それが黎明時代から今日まで発達するにはやはりそれだけの歴史があったので、その歴史は絶対単義的な唯一の道をたどって来たと考えるよりは、むしろ多くの可能な道のうちの一つを通って来たものと考・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・上記の科学の黎明期におけるこれら実験の中のあるものはいくらか量的と言われうるものであったが、しかしこれらのすべては必ずしも今ごろ言うような量的ではなかったのである。この時代として最重要であったことは、「卵大」のガラス球についた「藁ぐらいの大・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・品行が方正でないというだけなら、まだしもだが、大に駄々羅遊びをして、二尺に余る料理屋のつけを懐中に呑んで、蹣跚として登校されるようでは、教場内の令名に関わるのは無論であります。だからいかな長所があっても、この長所を傷ける短所があって、この短・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 私たちの日本が、民主主義の黎明のためについやした犠牲は、なんと巨大なものであったろう。かぞえつくせない青春がきずつけられ、殺戮された。知性もうちひしがれた。民主の夜あけがきたとき、すぐその理性の足で立って、嬉々と行進しはじめられなかったほ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・或人は熱心に、新しい日本の黎明を真に自由な、民権の伸張された姿に発展させようと腐心し、封建的な藩閥官僚政府に向って、常に思想の一牙城たろうとした。 元来、新聞発行そのものが、民意反映の機関として、またその民意を進歩の方向に導くための理想・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・伸子は、社会認識の黎明にたっている。その客観のうすら明りのなかに、何とたくさんの激情の浪費が彼女の周囲に渦巻き、矛盾や独断がてんでんばらばらにそれみずからを主張しながら、伸子の生活にぶつかり、またそのなかから湧きだして来ていることだろう。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・文学においては、ドイツのハイネ、ロシアのツルゲーネフなどが新時代の黎明を語った時代で、一般の人々の自主独立的な生活への要望はきわめて高まっていた。ウィルヘルム二世は一八四七年、国内に信仰の自由を許す法律を公布した。ところが、僅か二年ばかりで・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ 日本の地平線をちらりと掠めた民主主義の黎明は、こうして短い歴史を終った。そして近代国家としての日本は、軽工業の労働の裡に青春を消耗しつくす貧困、無智な婦人の労力を土台にして、第一次欧州大戦迄膨張をつづけて来たのであった。 第一次大・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ルネッサンスは、近代科学の黎明ではあったけれども、錬金術師のフラスコと青く光る焔とは、まるでその時代の常識に、真黒くて尻尾のある悪魔を思いださせた。魔法の汁で恋のまことが狂わせられるということもないといえないこととして、シェクスピア時代の観・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・三月の初め、私が徹夜した黎明であった。重く寒い暗藍色の東空に、低く紅の横雲の現れたのが、下枝だけ影絵のように細かく黒くちらつかせる檜葉の葉ごしに眺められた。閉め切った硝子戸の中はまだ夜だ。壮重な夜あけを凝っと見て居ると、何処かで一声高らかに・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
出典:青空文庫