・・・大体、ツルゲーネフの少年・青年時代を生活したロシアの四〇年代は、ロシア解放運動史の上ではまことに意味深い黎明期であった。先ずツルゲーネフが七歳の一八二五年に有名な十二月党の叛乱があった。この少壮貴族・将校を中心とする叛乱の計画は一貴族の卑劣・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・燈心に花が咲いて薄暗くなった、橙黄色の火が、黎明の窓の明りと、等分に部屋を領している。夜具はもう夜具葛籠にしまってある。 障子の外に人のけはいがした。「申し。お宅から急用のお手紙が参りました」「お前は誰だい」「お表の小使でござい・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ 真道黎明氏の『春日山』は川端氏の画と同じく写実の試みであって、さらに多くの感情を現わし得たものである。柔らかい若葉の豊かな湧き上がるような感触は、――ただこの感触の一点だけは、――油絵の具をもって現わし難いところを現わし得ているように・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫