・・・如何にハリウッドの女優のような知性と生活技法、経済的基礎とをもってしても、離合のたびに女性の品位は堕落し、とうてい日本の貞女烈婦のような操持ある女性の品位と比ぶべくもないのである。 人生における別離には死別にも生別にもさまざまの場合があ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・女にも烈婦があった。そしてどことなくイブセンの描いたのに似たような強い女も出て来た。さすがにワルキリーの国だと思われたりした。 オラーフ・トリーグヴェスソンが武運つたなく最後を遂げる船戦の条は、なんとなく屋島や壇の浦の戦に似通っていた。・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・「……あんなに、貞女と烈婦には決してなるまいと思って暮して来たのに――」 ひろ子は、このとき重吉のとなりにかけている中年男が自分たち二人の言葉のやりとりに関心をもってきいているのを知った。同時に、自分が、涙っぽくしかこの話にふれられ・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫