・・・家長というものに絶対責任を置いて、死んだら子供が路頭に迷う。それがつまり全然私有財産制度の下にある家庭である。 けれどもソヴェトでは、亭主は一人の労働者として、失業保険を有っているし、また健康保険もあり、養老保険もある。それから家族があ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・会社の方では儲がうすくなったから、これ以上損をすまいと勝手に閉めるのだが、その日から女房子供を抱えて路頭に迷わなければならない数百人の労働者達は、黙ってそうですかと引込んではおれない。かたまって事務所へ押しかけ、閉めるのは勝手だが、俺たちの・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・という言葉は、これまでのように、出てゆけば明日から路頭に迷わなければならないものに向って云われる、おどかしの言葉ではなくなった。出てゆけ、という一言には、出てゆかせるものの責任が示されて来たのである。 けれども、それくらいのことで、本当・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・旅人に足を留めさせまいとして、行き暮れたものを路頭に迷わせるような掟を、国守はなぜ定めたものか。ふつつかな世話の焼きようである。しかし昔の人の目には掟である。子供らの母はただそういう掟のある土地に来合わせた運命を歎くだけで、掟の善悪は思わな・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫