・・・ 婆やはわあわあ泣く八っちゃんの脊中を、抱いたまま平手でそっとたたきながら、八っちゃんをなだめたり、僕に何んだか小言をいい続けていたが僕がどうしても詫ってやらなかったら、とうとう「それじゃよう御座んす。八っちゃんあとで婆やがお母さん・・・ 有島武郎 「碁石を呑んだ八っちゃん」
・・・ええ、それをですわ、――世間、いなずま目が光る―― ――恥を知らぬか、恥じないか――と皆でわあわあ、さも初路さんが、そんな姿絵を、紅い毛、碧い目にまで、露呈に見せて、お宝を儲けたように、唱い立てられて見た日には、内気な、優し・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・そのとき、あちらから、子供たちの声がして、わあわあいって、きかかる中に、正ちゃんもいたのです。お姉さんは、やっと安心して、そのそばにまいりました。「正ちゃん、どこへいっていたの?」と、お姉さんは、ききました。「本屋の二階で、学校ごっ・・・ 小川未明 「ねことおしるこ」
・・・ 爺さんはこう言って、わあわあ泣きながら、子供の首を抱きしめました。 そうしてる内に、手が両方ばらばらになって落ちて来ました。右の足と左の足とが別々に落ちて来ました。最後に子供の胴が、どしんとばかり空から落っこって来ました。 私・・・ 小山内薫 「梨の実」
・・・救助網に撥ね飛ばされて危うく助かった豹一が、誰に貰ったのか、キャラメルを手に持ち、ひとびとにとりかこまれて、わあわあ泣いているところを見た近所の若い者が、「あッ、あれは毛利のちんぴらや」 と、自転車を走らせて急を知らせてくれ、お君が・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ダイヤのネクタイピンなど、無いのを私は知って居りますので、なおのこと、兄の伊達の気持ちが悲しく、わあわあ泣いてしまいました。なんにも作品残さなかったけれど、それでも水際立って一流の芸術家だったお兄さん。世界で一ばんの美貌を持っていたくせに、・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・私が二階で小説を書いて居ると、下のお店で朝からみんながわあわあ騒いでいて、佐吉さんは一際高い声で、「なにせ、二階の客人はすごいのだ。東京の銀座を歩いたって、あれ位の男っぷりは、まず無いね。喧嘩もやけに強くて、牢に入ったこともあるんだよ。・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・子共は、ばかなやつ、すでに天国を目のまえに見たかのように、まるで凱旋の将軍につき従っているかのように、有頂天の歓喜で互いに抱き合い、涙に濡れた接吻を交し、一徹者のペテロなど、ヨハネを抱きかかえたまま、わあわあ大声で嬉し泣きに泣き崩れていまし・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・たいところもあるのだから、楽しく読めることもあるけれど、あの、深刻そうな、人間味を持たせるとかいって、楠木正成が、むやみ矢鱈に、淋しい、と言ったり、御前会議が、まるでもう同人雑誌の合評会の如く、ただ、わあわあ騒いで怨んだり憎んだり、もっぱら・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・社へ情報がはいって、すぐ病院へ飛んでいったら、この先生、ただ、わあわあ泣いているんでしょう? わけがわからない。そのうちに警視庁から、記事の差止だ。ご存じですか? 須々木乙彦って、あれは、ただの鼠じゃないんですね。黒色テロ。銀行を襲撃しちゃ・・・ 太宰治 「火の鳥」
出典:青空文庫