・・・小島君も和漢東西に通じた読書家です。これは小島君の小説よりも寧ろ小島君のお伽噺に看取出来ることゝ思います。最後にどちらも好い体で長命の相を具えています。いずれは御両人とも年をとると、佐佐木君は頤に髯をはやし、小島君は総入れ歯をし、「どうも当・・・ 芥川竜之介 「剛才人と柔才人と」
・・・これは和漢天竺の話を享保頃の坊さんの集めた八巻ものの随筆である。しかし面白い話は勿論、珍らしい話も滅多にない。僕は君臣、父母、夫婦と五倫部の話を読んでいるうちにそろそろ睡気を感じ出した。それから枕もとの電燈を消し、じきに眠りに落ちてしまった・・・ 芥川竜之介 「死後」
・・・と云う、古い札が下っていますが、――時々和漢の故事を引いて、親子の恩愛を忘れぬ事が、即ち仏恩をも報ずる所以だ、と懇に話して聞かせたそうです。が、説教日は度々めぐって来ても、誰一人進んで捨児の親だと名乗って出るものは見当りません。――いや勇之・・・ 芥川竜之介 「捨児」
・・・馬琴の衒学癖は病膏肓に入ったもので、無知なる田夫野人の口からさえ故事来歴を講釈せしむる事が珍らしくないが、自ら群書を渉猟する事が出来なくなってからも相変らず和漢の故事を列べ立てるのは得意の羅大経や『瑯ろうやたいすいへん』が口を衝いて出づるの・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・にはなるまいと内心馬鹿にしながらも二、三枚めくると、ノッケから読者を旋風に巻込むような奇想天来に有繋の翁も磁石に吸寄せられる鉄のように喰入って巻を釈く事が出来ず、とうとう徹宵して竟に読終ってしまった。和漢の稗史野乗を何万巻となく読破した翁で・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・子供衆に遺して行った多くの和漢の書籍は、親戚の立会の上で、後仕末のために糴売に附せられた。 桜井先生の長い立派な鬚は目立って白くなった。毎日、高瀬は塾の方で、深い雪の積って行くような先生の鬚を眺めては、また家へ帰って来た。生命拾いをした・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・……。唐山にはかういふ故事がある。……。和漢の書を引て瞽家を威し。しつたぶりが一生の疵になつて……」というのである。 西鶴の知識の種類はよほど変っている。稀に書物からの知識もあるが、それはいかにも附焼刃のようで直接の読書によるものと思わ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・第六、歴史 歴史は、和漢に限らず、世界中いずれの国にても歴代あらざるはなし。歴代あれば歴史もあるはずなり。ひろく万国の歴史を読み、治乱興廃の事跡を明らかにし、此彼相比較せざれば、一方に偏するの弊を生じ、事にあたりて所置を錯る・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・桀紂を滅して湯武の時に人民安しといえども、湯武の後一、二世を経過すれば、人民は国祖の余徳を蒙らず。和漢の歴史に徴しても比々見るべし。政治の働は、ただその当時に在りて効を呈するものと知るべきのみ。 これに反して教育は人の心を養うものにして・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ 然るに我輩が古今和漢の道徳論者に向かって不平なるは、その教えの主義として第一に私徳公徳の区別を立てざるにあり。第二には、仮令え不言の間に自ずから区別する所ありとするも、その教えの方法に前後本末を明言せずして、時としては私徳を説き、また・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫