・・・鶯やみそさざい、ひわやまたかけすなどからだが小さく大へん軽い。その飛ぶときはほんとうによく飛ぶ。枝から枝へうつるときはその羽をひらいたのさえわからないくらい早く、青ぞらを向うへ飛んで行くときは一つのふるえる点のようだ。それほどこれらの鶯やひ・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・「ゴゴンゴーゴー、 やまのいわやで、 熊が火をたき、 あまりけむくて、 ほらを逃げ出す。ゴゴンゴー、 田螺はのろのろ。 うう、田螺はのろのろ。 田螺のしゃっぽは、 羅紗の上等、ゴゴンゴーゴー」・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・その沈潜するこころもちをまぎらすように、わやわやとした声でかつて軍部に扈従して政治や文学を語った作家が、こんどは、軍事基地施設を拒むことは出来ないという吉田首相をとりまいて文学・政治を談じている。 これらの現実にかかわらず、地球は、今日・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・ 年をとるのがいやだと云うわけでもないけれど、何にも出来ないで、只わやわやと七日位たって仕舞うのがいやになった。 別に学者振るわけでは勿論ないけれ共、ふだん割合に自由な時間を少しほか持たない私は、一日でも、二日でも、勝手にすごされる・・・ 宮本百合子 「午後」
・・・ お玉杓子が湧き、ちゃくとり――油虫の成虫――がわやわや云いながら舞いさわぐ下の耕地にはペンペン草や鷺苔や、薄紫のしおらしい彼岸花が咲き満ちて、雪解で水嵩の増した川という川は、今までの陰気に引きかえまるで嬉しさで夢中になっているようにみ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・社会党を盗人の巣のように思わせ、そこにスポットを当て、わやわやと目に見える光景にばかり気をとられているうちに、日本の生産はいつの間にかポツダム宣言で武装放棄したにかかわらず何人かのために軍需化され、五年後には主要食糧生産の増加率よりも鉄の生・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・するばかりじゃ」「急ごうぞ」「急ぎゃれ」これだけの応答が幾たびも試験を受けた。「馬が走るわ。捕えて騎ろうわ。和主は好みなさらぬか」「それ面白や。騎ろうぞや。すわやこなたへ近づくよ」 二人は馬に騎ろうと思ッて、近づく群をよく視れば・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・「お前、酒桶からまくれ落って、土台もうわやや。お母に頼んでくれよ。おらんのか?」「好え加減にしとけ。」 秋三は立ち上った。「おい、頼む頼む。お母に一寸云うてくれったら。」 秋三はそのまま黙って柴を担ごうとすると、「お・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫