・・・蠅がワンと飛ぶ。石灰の灰色に汚れたのが胸をむかむかさせる。 あれよりは……あそこにいるよりは、この闊々とした野の方がいい。どれほど好いかしれぬ。満洲の野は荒漠として何もない。畑にはもう熟しかけた高粱が連なっているばかりだ。けれど新鮮な空・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・蠅がワンと飛ぶ。石灰の灰色に汚れたのが胸をむかむかさせる。 あれよりは……あそこにいるよりは、この闊々とした野の方がいい。どれほど好いかしれぬ。満洲の野は荒漠として何もない。畑にはもう熟しかけた高粱が連なっているばかりだ。けれど新鮮な空・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ 五 イワン ドブジェンコのこの映画にも前の「大地」と同様な静的な画面をつないで行く手法が目につく。堰堤工事の起重機や汽車の運動は、見ているとめまいを起こすほどであるが、しかしその編集法はやはり静的で動的でない。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 五 イワン ドブジェンコのこの映画にも前の「大地」と同様な静的な画面をつないで行く手法が目につく。堰堤工事の起重機や汽車の運動は、見ているとめまいを起こすほどであるが、しかしその編集法はやはり静的で動的でない。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・このような云わば一元的 one dimensional な権威といえども学修者研究者にとって甚だ必要なものである事は勿論である。 今ここに夏休みに温泉に出かけようとする人がある。その人にとっては先ず全国の温泉案内書のようなものは甚だ重宝・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・玉子豆腐の朱わんのふたの裏に、すり生姜がひとつまみくっつけてあったことを、どういうわけか覚えている。父が何かしらそれについて田舎と東京との料理の比較論といったようなものをして聞かせたようであった。 天狗煙草が全盛の時代で、岩谷天狗の松平・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・こんな事を考えながら一わんの鯉こくをすすってしまった。「絵をおかきになるなら、向こうの原っぱへおいでになるといい所がありますよ」と教えられたままにそのほうへ行ってみる。近ごろの新しい画学生の間に重宝がられるセザンヌ式の切り通し道の赤土の・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・I say ! Herr Meister ! Far away, far away ! One dollar, all dive ! などと言っているらしい。自分はどうしても銭をなげる気になれなかった。 船が出る時桟橋に立った見送りの一・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・その後教授が半ばはその研究の資料を得るために半ばはこの自分を追跡する暗影を振り落とすためにアフリカに渡ってヘルワンの観測所の屋上で深夜にただ一人黄道光の観測をしていた際など、思いもかけぬ砂漠の暗やみから自分を狙撃せんとするもののあることを感・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・その後教授が半ばはその研究の資料を得るために半ばはこの自分を追跡する暗影を振り落とすためにアフリカに渡ってヘルワンの観測所の屋上で深夜にただ一人黄道光の観測をしていた際など、思いもかけぬ砂漠の暗やみから自分を狙撃せんとするもののあることを感・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
出典:青空文庫