・・・出て来る画面も出て来る画面もみんな一様に単に絵の具箱をぶちまけたような、なんのしめくくりもアクセントもないものでは到底進行の感じはなくただ倦怠と疲労のほか何物をも生ずることはできないであろう。 立体映画 二次元的平面・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・という言葉を繰り返す場面で、何かもう少しアクセントをつけるような編集法はないものかと思われた。たとえば城代の顔と二三の同志の顔のクローズアップ、それに第一のクライマックスに使われた「柱に突きささった刀」でもフラッシュバックさせるとか、なんと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・などに比べて歯切れが悪くてアクセントの弱い作品のように思われる。見ていて呼吸のつまるような瞬間が乏しく、全体になんとなくものうい霧のようなもののかかった感じがする。 役者では主役のピエールよりも脇役のニコラというロシア人がわざとらしくな・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・そうして観者の頭の中の映画に強いアクセントを与え、同時に次の進展への衝動と指針を与える。これは驚くべき芸術であるとも言われなくはない。これはともかくも一つの問題である。そうしてこの問題を追究すればその結果は必ず映画製作者にとってきわめて重要・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・もしや錯覚かと思って注意してはみたが、どうも老人の唄の小節の最初の強いアクセントと同時に頸を曲げる場合が著しく多い事だけは確かであるように思われた。してみると、この歌のリズムがなんらかの関係で、直接か間接か鴉の運動神経に作用しているらしく思・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・その瞬間に自分の頭の中のどこかのすみを他の同窓のだれかれの影が通り過ぎてすぐ消えたのかもしれない、そうして中でもいちばん早くなくなったS君の記憶が多少特別なアクセントをもって印銘された、その余響のようなものがこの夢のS君出現の動機になったの・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・それがなんだかどなりつけるかまたしかり飛ばしでもするような強烈なアクセントで天地に鳴り響いたのであった。 やっぱり浅間が爆発したのだろうと思ってすぐにホテルの西側の屋上露台へ出て浅間のほうをながめたがあいにく山頂には密雲のヴェールがひっ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・の字にアクセントをおいて云って、当惑そうな、あるいは気の毒そうな表情をした。傍で聞いている小店員の中には顔を見合せてニヤニヤ笑っているのもあった。おそらくこれらの店の人にとって、今頃石油ランプの事などを顧客に聞かれるのは、とうの昔に死んだ祖・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・そうしてそのあまりに不自然に強調された手首のアクセントが自分には少し強すぎるような気もした。しかしこれがかえっていわゆる近代人の闘争趣味には合うのかもしれないと思われるのであった。 しかし、時代思想がどう変わってもバイオリンの音の出し方・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・に妙なアクセントをつけた妻の声が明らかに聞こえた。それは出入りの牛乳屋がどこかからもらって、小さな虎毛の猫を持って来たのであった。 まだほんとうに小さな、手のひらに入れられるくらいの子猫であった。光沢のない長いうぶ毛のようなものが背中に・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
出典:青空文庫