・・・そういう今日の共感に交えてデスデモーナのオセロにたいする封建的な屈従と畏怖とが、大切な愛をおどおどとさせ、才覚とほんとうの正直さとを失わせ、一枚のハンカチーフを種にイヤゴーの奸策につけ入らせた。そのルネッサンス女性の暗愚さは、ソヴェトの若い・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・そして、現代の典型はルネッサンス時代のように、どういう意味においても強烈な個性によって――オセロとイヤゴーの例にしても――一定の社会に典型たり得ているという単純なものでないことも着目される。平凡な、人間性のよわい、自主性のかけた人物が、ある・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ところがオセロの幕下にイヤゴーという奸物がいる。イヤゴーは単純で正直な人々の生活を、自分の奸智でかき乱して、その効果をよろこぶという、たちのわるい生れつきである。従順で、この上なく美しいデスデモーナと、黒いオセロの睦じい性格は彼の奸智を刺激・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・その二人の間に、オセロの愛のしるしとして一枚のきれいなハンカチーフが存在する。イヤゴーはオセロとデスデモーナの白と黒との異国的な調和の美が完成されたまますぎてゆくことに、焦だった刺戟を感じる。人間の苦しみ、まどいする姿を、いま幸福なこの夫婦・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
出典:青空文庫