・・・ 色々と六かしい、しかもたいていはエゴイスティックな理窟を並べてはいるようであるが、結局は、当り前分り切った年賀状の効能を五十の坂を越えてから始めてやっと気のつくようになったのであるらしい。いったいこれに限らず彼の考える事、する事はたい・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・人間らしい生活の多様さや発展、生きている甲斐が感じられるような人生をもとめて結婚した一人の若い女が、あいてと自分との結婚生活の現実に見出したものは、無目的で、エゴイスティックな理想のない日々の平安への希望だけであった。流れ動き生成する男女の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・その人はどういう風になるかといえば、どしどし金の値打が下るから、ますます人には頼れない、ますますたよりになるのは自分だけと、一層エゴイスティックな気持の中にちぢこまる、と同時に、金の方はいつかマイナスになってしまって、のこるのは不具にこりか・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・人間交渉に真実を目ざすのが特質であるこの作者が、どうして、允子の自分の子ばかりとりかえそうとするエゴイスティックな態度が允男をしんから離れさせたのであること、母、自分の母、ほかならぬ我母が、自分の子ばかりを庇おうとして自分が身をもって守って・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・自傷を愛撫し、しかしそれらを愛撫するわが芸術家魂というものをひたすらに愛撫する荷風は、ある意味では人生に対する最もエゴイスティックな趣味家ではあるまいか。 ヨーロッパの婦人の社会生活を見ている荷風は、ヨーロッパ婦人の美しさの讚美者であり・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫