・・・二 この娘は自分を忘れはすまいとこの男が思ったのは、理由のあることで、それにはおもしろいエピソードがあるのだ。この娘とはいつでも同時刻に代々木から電車に乗って、牛込まで行くので、以前からよくその姿を見知っていたが、それといっ・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・そうしてそれらの断片が何個集まって一つの系列あるいはエピソードを成すかを決定してその全長を計算し、そういう系列の何個が全編を成すかを定めなければならない。 実際には、監督の人によっては、かなりにルースな方法による人はあるであろうが、原則・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・学校教場の生徒の列もいくらかこれに応ずるエピソードである。刑務所と工場との建築に現われるあらゆる美しい並行直線の交響楽。脱獄のシーンに現われる二重の高塀の描く単純で力強い並行線のパースペクチヴ。牢屋や留置場の窓の鉄格子、工場の窓の十字格子。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・物語の筋はむしろ簡単であるが、途中に插入されたいろいろのエピソードで「映画的内容」がかなり豊富にされているのに気がつく。たとえば兵営の浴室と隣の休憩室との間におけるカメラの往復によって映出される三人の士官の罪のない仲のいいいさかいなどでも、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
一 白熊の死 探険船シビリアコフ号の北氷洋航海中に撮影されたエピソード映画の中に、一頭の白熊を射殺し、その子を生け捕る光景が記録されている。 果てもない氷海を張りつめた流氷のモザイクの一片に乗っかって親・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・それらの写真の下にある説明の文句を読んで見ると「モロッコ地方の Pacification のエピソード」と云ったような言葉が使ってある。直訳なら「平和化」で、先ず「平定」とでも訳する所であろうが、とにかくフランス人らしい巧妙な措辞である。「・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 容疑者の容疑をもう一段強めるために、もう一つのエピソードを導入したいので次のような仕かけを考えたものである。この挿話の主人公夫婦として現われる二人の俳優の演技が老巧なためにこれが相当な効果をあげているようである。 銀座を追われた靴・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ ナイヤガラやシカゴでは別段にこれというチューインガムのエピソードはなかったように記憶するが、これはおそらく、自分の神経がこの脅威に対していくらか麻痺しかけたためであったかもしれない。 これは今から二十年前の昔話である。現在のアメリ・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・ 今度の素人従業員は素人だけにいろいろのエピソードをこしらえた。室町から東京駅行きのバスに乗ったら、いつものように呉服橋を渡らずに堀ばたに沿うて東京駅東口のほうへぶらりぶらりと運転して行く。臨時運転だからコースが変わったのかと思っている・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・この船の航海中に遭遇したいろいろな困難のエピソードについてはすでに新聞雑誌にかなり詳しく紹介されたからここに繰り返すまでもない。しかしこの成功が決して偶然の僥倖によるものではなくてちゃんとした科学的な基礎の上に立つものであるということを知る・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
出典:青空文庫