・・・入口の隅のクリスマスの樹――金銀の眩い装飾、明るい電灯――その下の十いくつかのテーブルを囲んだオールバックにいろいろな色のマスクをかけた青年たち、断髪洋装の女――彼らの明るい華かな談笑の声で、部屋の中が満たされていた。自分は片隅のテーブルで・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・若いオールバックの男が這入ろうとすると、役人が二、三人寄って行って、その男の洋服のかくしを一つ一つ外から撫で廻していた。それを見ているうちに、妙な気持になって来た。 理由の分らなかった朝からの不満が、いつの間にかだんだんに具体的な形を具・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・頭髪は昔の徳川時代の医者のような総髪を、絵にある由井正雪のようにオールバックに後方へなで下ろしていた。いつも黒紋付に、歩くときゅうきゅう音のする仙台平の袴姿であったが、この人は人の家の玄関を案内を乞わずに黙っていきなりつかつか這入って来ると・・・ 寺田寅彦 「追憶の医師達」
・・・「さあ、どうかね、お客さまのおが白くて、それに円くて、大へん温和しくいらっしゃるんだから、やはりオールバックよりはネオグリークの方がいいじゃないかなあ。」「うん。僕もそう思うね。」も一人も同意しました。私の係りのアーティストが、おれ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫