・・・白のカシミヤの手袋を用い、厳寒の候には、白い絹のショオルをぐるぐる頸に巻きつけました。凍え死すとも、厚ぼったい毛糸の類は用いぬ覚悟の様でした。けれども、この外套は、友だちに笑われました。大きい襟を指さして、よだれかけみたいだね、失敗だね、大・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・ 人間のねうちは着物ではないと云って、小学校の四、五年ごろ菫色のカシミヤの袴の色のさめたのを、仕立て直して、襞のひろい方へもと上の方だった狭い褪せたあとの出たのを穿かされたのも覚えている。それを器用に染め直して、お前は女の子だからこんな・・・ 宮本百合子 「親子一体の教育法」
・・・紺色のカシミヤの手袋をはめて、白い大きな皮のえり巻をして行ったんでした。 母とmとの間にはさまれて歩きました。 安っぽい絵襖紙を見る様なギラギラした感じのする下びた町すじを母の手にすがりついて物なれない人の様に特別な感じをうけながら・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫