・・・因習によって無知にされ、そのかげでは人間性の歪められている性の問題のカーテンを、ゆすぶらせたのであった。 卑俗な多くの人々にとって、ローレンスが卑猥であったなら、もっと堪えやすかったろう。なぜなら、卑猥に人々は馴れている。体面をつくろう・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・わきの小窓にかかっている紫っぽいところに茶の細い格子のある毛織地のカーテンと原稿紙の字とは大変美しく釣合って、稲子にさすがだといってほめられました。まるでお話ししながら、そこに全体の仕事を感じながら、自分も仕事をしているような居心地よさです・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ カーテン 若き夫と妻。 明るい六月の電燈の下で チラチラと鋏を輝かせ 針を運び 繊細なレースをいじる。―― 「どう?……これでよろしいの? 長くはなくって?」 妻は薄紫のきものの膝から・・・ 宮本百合子 「心の飛沫」
・・・こんにち反動は、おそろしげに鉄のカーテンとよんでソヴェト同盟の現実をかくそうとしている。「道標」をよんだ職場の人々は、ソ同盟にいるのも同じく働く人民であり、人民の幸福のための政治と組合と、学校、家庭をもっていることを知って、ソ同盟への親しみ・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・○白キャラコのカーテン。そのあおり、東の表の欄間はすっかり形つなぎの硝子。こっちからなかなか風が入る。 ○線路が見える。 黄色い羽形の上についた信号燈の色 赤、青○こわれた電燈カサが床の間の隅っこにいつからか置いて・・・ 宮本百合子 「Sketches for details Shima」
・・・ ラグナートが、左手の隅のカーテンの中へ一寸入ると、室じゅうが急に真暗になった。 ――ああ! ラグナート! どこいった? こわいよ! 暗いとこへは悪魔が出るよ ――大丈夫だよ! 大丈夫だよ。僕ここさ。 だが、なにが初まろうという・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 室へ帰って手帳に物を書いていたら、薄いカーテンに妙に青っぽい閃光が映り、目をあげて外を見ると、窓前のプラタナスに似た街路樹の葉へも、折々そのマグネシュームをたいた時のような光が差して来る。不思議に思って首をさし出したら、つい先が小公園・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 私共は壁を紙ではり、台所のテーブルの工合をなおし、私の机の前にはカーテンを下げ、すっかり落付くようにした。 考えて見ると、人間の主我的なところと、ハムブルな弱いところとをよく現して居る。こんな家でもあった丈有難く思う謙遜さ またそ・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・その六列目にかけて見物していたら、幕間に――と云っても、メイエルホリド劇場にはするすると下りて来るカーテン幕はないから、つまり舞台から俳優が引っこんで、電車製作工場内部を示す構成だけ舞台の上にのこったとき、作者ベズィメンスキーが挨拶に出た。・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・遠くの病舎のカーテンの上で、動かぬ影が萎れていた。時々花壇の花の先端が、闇の中を探る無数の青ざめた手のように揺らめいた。 十三 その夜、満潮になると、彼の妻は激しく苦しみ出した。医者が来た。カンフルと食塩とリンゲ・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫