・・・ ――風邪を引いて、首にガーゼを巻いた時めたいに行けなかった――それが悲しかったのよ。でももういいわ。この女だってもう結婚するんですもの」 そして急に眼鏡を外して、そっと涙を拭いたかと思うと、何思ったのかいきなり、ぺろっと舌を出して・・・ 織田作之助 「眼鏡」
・・・半病人の家の者が、白いガーゼのマスクを掛けて、下の男の子を背負い、寒風に吹きさらされて、お米の配給の列の中に立っていたのだ。家の者は、私に気づかぬ振りをしていたが、その傍に立っている上の女の子は、私を見つけた。女の子は、母の真似をして、小さ・・・ 太宰治 「父」
・・・手術後、ガーゼのつめかえの方法をいい加減にしたので、膿汁が切開したところから出きらず、内部へ内部へと病毒が侵入して、病勢は退院後悪化した。同志今野が、どうも頭は痛くなって来たし変だと思い、苦痛を訴えたら、済生会の軍医は、却ってこれまで一日お・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・首がガクつくのをガーゼで巻いてある真鍮の呼鈴、一緒に、アスパラガスに似た鉢植が緑の細かい葉をふっさり垂れていた。 日本でも猫が葉っぱをたべたりするのかしらん。―― 床に黄色い透明な液体が底にたまった大コップがある。胆汁だ。斑猫はその・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫