・・・バットやチェリーやエアシップは月並みだと思ったが、しかし、ゲルベゾルテやキャメルやコスモスは高すぎた。私はキングという煙草を買って練習した。一箱十銭だった。 口に煙草のにおいのある女とは、間もなく別れた。その当座、私は一日二箱のキングを・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・たわむれに呟いて、たばこ屋に立ち寄り、キャメルという高価の外国煙草を二個も買い、不良少年のふりをして、こっそり吸っては、あわててもみ消す。腰のまがった小さい巡査が、両手をうしろに組んで街道のまんなかをぶらりぶらり、風に吹かれて歩いていた。私・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・煙草は、ふんぱつして、Camel だ。紅葉の山に夕日があたっている。しばらくして、女は風呂からあがって来る。縁側の欄干に手拭を、こうひろげて掛けるね。それから、君のうしろにそっと立って、君の眺めているその同じものを従順しく眺めている。君が美・・・ 太宰治 「雌に就いて」
出典:青空文庫