・・・ 自覚という言葉をここに借りて、わたしたちの現実の生きている心持の状態を調べてみると、自覚という言葉を充分知っている若い女性たちが、生活の現実では自覚していないというギャップがあちらこちらに見られます。これはわたしたちの受けた教育の悲劇・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ 谷川徹三が時を同くして唱えた文化平衡論も知識人と民衆の間に横たわる文化のギャップを埋めて、日本の新しい文化はその平衡をとりもどさなければならないとしたが、この論に於ても平衡のモメントは文化そのものの全体的な向上の歴史の過程で生れるもの・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 一般読者の要求とジャーナリズム編集の上に生じるギャップの現象は、日本の一九四五年末から一九四六年中ごろまでにも生じた。戦時中日本の作家の大部分は侵略戦争の協力者であったし、民主的な作家は強圧されていた生活からぬけたばかりで、いわゆる「・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・そのギャップを、強引にこのごろまたはやり出しているニイチェ風に押しきり得るものか、あるいはその折れ目からかえって全くインテリゲンチア的に虚無的な低下へまで堕ちこむか、私たちは、石坂洋次郎がすでに一つの重大な内容をはらんだ前進をよぎなくされて・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・今日の文学が評論界、思想界との間に相当のギャップを持っていることがはっきり見えているわけです。こういうふうにして既成作家のカムバックということにしても文学的カムバックが比較的少なくて、ジャーナリスティックなカムバックが主流をなしているその事・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・こんにち、吉田が語るようなギャップが感じられるのは、経験された闘争の過程そのもののうちから、労働者として階級的な人間成長の実感が育てられるような政治的・文化的モメントがひきだされなかったこと――経済主義的な傾きがよりつよく支配していたこと。・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・のような作品の主題と、作者としての生活的実践との間にある深刻で鋭い社会的なギャップを、ツルゲーネフが或る種の通俗的な作家たちのするように苦悶なく滑って行っているところを見ると、チェホフの短い評言は、ツルゲーネフにとって痛い一本のモリであろう・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ この面白い作家の欲望と現実との間にあるギャップは、一つは日本の近代文学が伝統として来た私小説の性質からの制約、小さな私というものの歴史的な本質からの障害が原因となっているだろうし、他の一つの理由は、小説というものがそれほど作家が生活し・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・この間に氏の学者としての歴史性を示す微妙なギャップと飛躍とが秘されていることを感じるのは私一人ではあるまい。 先頃「科学者の道」という映画が来て、あれを見た人はそれぞれ心に感動を受けた。科学者パストウルの生き方がわれわれを感動させるのは・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・……夫婦なんかの場合、ギャップはうめられなくなるからね」 最後のひとことを、ひろ子は瞳を大きくしてきいた。重吉がそれを云ったということではなく、一番しまいに、ひろ子が自分で自分のこころもちをきめたのち、はじめて重吉はそれを云った。そのこ・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫