・・・この物理の教官室は二階の隅に当っているため、体操器械のあるグラウンドや、グラウンドの向うの並松や、そのまた向うの赤煉瓦の建物を一目に見渡すのも容易だった。海も――海は建物と建物との間に薄暗い波を煙らせていた。「その代りに文学者は上ったり・・・ 芥川竜之介 「寒さ」
・・・ この映画を見た晩に宅へ帰って夕刊を見ると早慶三回戦だかのグラウンドの写真が大きく出ている。それを見たとき自分は愕然として驚いたのであった。場を埋むる人間の群れが、先刻見たばかりの映画中のフラミンゴーの群れとそっくりに見えたからである。・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・アメリカン・レビューにはそういう古典的な意味での音楽などはない代りに、オリンピックのグラウンドや拳闘のリンクに見らるる活力の鼓動と本能の羽搏きのようなものをいくらかでも感ずることが出来るのであった。 それほどにも国々の国民性がこんな演芸・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ もう、水の中に入らねばしのげないという日盛りの暑さでもないのに、夕方までグラウンドで練習していた野球部の連中が、泥と汗とを洗い流し、且つは元気をも誇るために、例の湖へ出かけて泳いだ。 ところがその中の一人が、うまく水中に潜って見せ・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・空気銃を持っている子供を、慶応のグラウンドの横できのう見た故だろうか。 穏かな、静かな日だ。 戸外が静かな通り、家の中も森としている。朝食をしまうと、すぐエーは机に向った。 私も四五通の手紙を書き、フランシス・エドワーズの目録を・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・今ロシア人は、ひろいグラウンドへ一つの大きい球をかっ飛ばし、それを追っかけ体ごところがり廻る。ロシアの新しい運動、蹴球。一名、動的生活。球の皮と皮との継ぎ目には“К”とスタンプが押してある。 一ヵ月経った。モスクワの春がむら気に近づいて・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・しかし、彼はその悪辣さと非条理とがあからさまな質問に対して、一歩も彼のホーム・グラウンドから進撃することが出来ませんでした。すなわち、菅氏は、形而上学によって整理・構成されている自分の理性、過去の形式論理にしたがって操作される自身の理性の機・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
出典:青空文庫