・・・ステインドグラスの説明には年号や使徒の名などがのべつに出て来たが、別に興味を動かされなかった。塔の屋根へ登って見おろすと、寺の前の広場の花壇がきれいな模様になっている事がよくわかった。しかし寺院はやっぱり下から見るものだと思う。 ダヴィ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・あるいは顕微鏡のデッキグラスの厚さを測微計で測らせ、また後に光学の部で再びこれを試験用平面に重ね、単色光で照らして干渉の縞を示すも有益であろう。 液体静力学の実験例えば浮秤で水や固体の比重を測る時でも、毛管現象が如何に多大の影響を有する・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・赤い砂岩の小さな墓標には "For now we see in a glass darkly, but then face to face." と刻してある。その後ウェストミンスター・アベーに記念の標石を納めようという提議が大学総長や王立協・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・そこを歩いている日本の若い女性たちは、目に入りきらないほどの色彩や、現実の自分の生活の内容には一つもじっくり入りこんでいない情景を、グラスのなかの金魚を外から眺めるように眺めて、時間のたつのも忘れ、わずか一杯のあったかいもので楽しもうとする・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ アメリカへ行くとのぼせて、日本人に向っておかしなことをいう日本人は、冬のさなかにサン・グラスをつけて、フジヤマ・スプレンディッドと叫んだ田中絹代ばかりではない。池田蔵相もだいぶおかしくなったらしい。尾崎行雄は年甲斐もなく亢奮して、日本・・・ 宮本百合子 「長寿恥あり」
・・・ 賑やかに飾った祭壇、やや下って迫持の右側に、空色地に金の星をつけたゴシック風天蓋に覆われた聖母像、他の聖徒の像、赤いカーテンの下った懺悔台、其等のものが、ステインド・グラスを透す光線の下に鎮って居る。小さいが、奥みと落付きある御堂であ・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・祭壇の後のステインド・グラスを透す暗紅紫色の光線はここまで及ばない。薄暗い御像の前の硝子壜に、目醒めるようなカリフォルニヤ・ポピーの一束が捧げてあるのが、いじらしい。隅に、紅金巾の帷を垂れた懺悔台がある。私共が御堂内にいる間に、女が二人参拝・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・半円形に並べられている議席はまだ空虚で、一段高くしつらえられた議長席のヨーロッパ風な背高椅子や、そのすこし下の左右に翼をはっている大臣席など出場を待たせる雰囲気を醸しながらステインド・グラスの格天井からさして来る曇った冬の日光の底に静まりか・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫