・・・が、僕の見た限りでは滝田コレクションは何と言っても今人の作品に優れていた。尤も僕の鑑賞眼は頗る滝田君には不評判だった。「どうも芥川さんの美術論は文学論ほど信用出来ないからなあ。」――滝田君はいつもこう言って僕のあき盲を嗤っていた。 滝田・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎氏」
・・・またことしの初夏には松坂屋の展覧会で昔の手織り縞のコレクションを見て同じようななつかしさを感じた。もしできれば次に出版するはずの随筆集の表紙にこの木綿を使いたいと思って店員に相談してみたが、古い物をありだけ諸方から拾い集めたのだから、同じ品・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・の貧しいコレクションの中には「シヨンの古城」があった。それからたしかルツェルンかチューリヒ湖畔の風景もあった。スイスの湖水と氷河の幻はそれから約二十年の間自分につきまとっていた。そうしてとうとう身親しくその地をおとずれる日が来たのであったが・・・ 寺田寅彦 「青衣童女像」
・・・これははなはだ興味の深いコレクションである。そのうちで日本人の訳者五名の名前を見るといずれも英語にはすこぶる熟達した人らしく思われるが、しかし自身で俳諧の道に深い体験をもっているのかどうか不明な人たちばかりのようである。残りの十人の外国人も・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・s connected with his bibliophilistic inclination which is well known among his friends. His private collection abounds w・・・ 寺田寅彦 「PROFESSOR TAKEMATU OKADA」
・・・の「コレクション」がある。七十円は高いが欲い。それに製本が皮だからな。この前買った「ウァートン」の英詩の歴史は製本が「カルトーバー」で古色蒼然としていて実に安い掘出し物だ。しかし為替が来なくっては本も買えん、少々閉口するな、そのうち来るだろ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 現在はまだ所謂有名になっていないでも、これはと目星をつけた男の画家の絵を、コレクションとして買っている人は決して無くはなかろう。あとで価が出るからと買うのだが、価が出るということには、現在の社会のくみ立てにしたがえば、それだけその画家・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 今日ペンさんが、三井洋画コレクションにあるラファエリー作の「大通り」というクレパスのようなこの人の発明したもので描いた絵の写真をくれました。色がない写真だけれど、いかにも田舎の町の大通り、パリへ続く郊外の大通りの落葉した時節の明るさ、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・倉敷には有名な大原コレクションがありますが、この倉敷で文化講演会があっても、総同盟あたりが締めつけにしている工場では、工場というところは働くためのところです、とポスター一つはせらず、講演会へ娘たちを出してよこしません。すべての人は教育をうけ・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・わざと揃えたよりは、偶然集まったと思われる collection である。ロダンは生れつき本好で、少年の時困窮して、Bruxelles の町をさまよっていた時から、始終本を手にしていたということである。古い汚れた本の中には、定めていろいろな・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫