・・・事によると、昔のある時代に繁茂していた植物のコロニーが、ある年の大噴火で死滅し、その上に一メートルほどの降砂が堆積した後に、再び植物の移住定着が始まり、その後は無事で今日に到ったのではないかという気がする。 峰の茶屋には白黒だんだらの棒・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・ことしはあひるのコロニーが優勢になって鶺鴒の領域を侵略してしまったのではないかと思われる。同じような現象がたとえば軽井沢のような土地に週期的にやって来る渡り鳥のような避暑客の人間の種類についても見られるかどうか。材料が手に入るなら調べてみた・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・伊東へ行く機会があったら必ず訪ねてみようと思うものの一つにはこの楊梅のコロニーがあるのである。 色々の木の実を食ったことを想い出す。昔の高坂橋の南詰に大きな榎樹があった。橙紅色の丸薬のような実の落ち散ったのを拾って噛み砕くと堅い核の中に・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・ 十年来むし込んでおいた和本を取り出してみたら全部が虫のコロニーとなって無数のトンネルが三次元的に貫通していた。はたき集めた虫を庭へほうり出すとすずめが来て食ってしまった。書物を読んで利口になるものなら、このすずめもさだめて利口なすずめ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・村山知義氏は「或るコロニーの歴史」に朝鮮人の生活を描き又「獣神」にこの作者独特のエネルギーと不思議な内部の分裂矛盾を示した。 この年六月十八日にマクシム・ゴーリキイがその多彩多産な六十八年の生涯をモスクで終ったことは、世界に少なからぬ感・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫