・・・ 四 ペナンとコロンボ四月十三日 ……馬車を雇うて植物園へ行く途中で寺院のような所へはいって見た。祭壇の前には鉄の孔雀がある。参詣者はその背中に突き出た瘤のようなものの上で椰子の殻を割って、その白い粉を額へ塗・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ シンガポールやコロンボの暑さは、たしかに暑いには相違ないが、その暑さはいわば板についた暑さで、自然の風物も人間の生活もその暑さにぴったり調和しているので、暑さが美化され純化されている。今思いだすだけでも熱帯の暑さの記憶は実に美しい幻影・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ 今年の正月にノースクリッフ卿がコロンボでタイムスの通信員に話した談話の中に、「東洋の新聞の中では日本のがいちばん信用ができる。ただしいわゆる『第三面』として知られた notorious scandal のためにそこなわれてはいるが」と・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ほんのわずかな経験ではあるが、シンガポールやコロンボでは涼しさらしいものには一度も出会わなかった。ダージリンは知らないがヒマラヤはただ寒いだけであろう。暑さのない所には涼しさはないから、ドイツやイギリスなどでも涼しさにはついぞお目にかからな・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
出典:青空文庫