・・・しかれどもトック君は不幸にも詳細に答うることをなさず、かえってトック君自身に関する種々のゴシップを質問したり。 問 予の死後の名声は如何? 答 ある批評家は「群小詩人のひとり」と言えり。 問 彼は予が詩集を贈らざりしに怨恨を含め・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・のみならず新聞のゴシップによると、その代議士は数年以前、動物園を見物中、猿に尿をかけられたことを遺恨に思っていたそうである。 お伽噺しか知らない読者は、悲しい蟹の運命に同情の涙を落すかも知れない。しかし蟹の死は当然である。それを気の毒に・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・私の浪費癖は、もういまではゴシップになっているが、しかし私の浪費はただ物質だけでなく、私の人生、私の生命まで浪費している。この浪費の上に私の文学が成り立っている――というこの事情も、はじめは私の任意の一点であったのだが、いまではもはや私の宿・・・ 織田作之助 「私の文学」
・・・たとえばポオとレニンが比較されて、ポオがレニンに策士だといって蔭口をきいたといった風なゴシップは愉快だからな。何よりも僕の考えていることは、友人面をしてのさばりたくないことだ。君の手紙のうれしかったのは、そんな秘れた愛情の支持者があの中にい・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・これは無責任ないし悪意あるゴシップによって日常行われている現象である。 それでこの書物の内容も結局はモスコフスキーのアインシュタイン観であって、それを私が伝えるのだから、更に一層アインシュタインから遠くなってしまう、甚だ心細い訳である。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・松平氏は第二夫人以下第何十夫人までを包括する日本一の大家族の主人だというゴシップも聞いたが事実は知らない。とにかく今日のいわゆるファイティング・スピリットの旺盛な勇士であって、今日なら一部の人士の尊敬の的になったであろうに、惜しいことに少し・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・それにもかかわらず、冷静な第三者の目には明白にこの場合に該当すると思われる場合においても、弟子が先生を恨みゴシップがたきつけるという事件の起こることが意外に多いように見受けられる。これは科学的のアルバイトというものの本性に関する認識不足から・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・これはゴシップではあろうがとかくあすの事はかまわぬがちの現代為政者のしそうなことと思われておかしさに涙がこぼれる。それはとにかく、さし当たってそういう土民に鉄筋コンクリートの家を建ててやるわけにも行かないとすれば、なんとかして現在の土角造り・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・素人のゴシップをそのままに伝えたいつもの新聞のうそであろう。この日の降灰は風向の北がかっていたために御代田や小諸方面に降ったそうで、これは全く珍しいことであった。 当時北軽井沢で目撃した人々の話では、噴煙がよく見え、岩塊のふき上げられる・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・こんな人達はすぐ隣に住んでいるゴシップ等の眼にはあるいはちょうどこの簑虫のように気の知れない、また存在の朧気なものとしか見えなかったかもしれない。現世とはただわずかな糸でつながって、飄々として風に吹かれているような趣があったかもしれない。た・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
出典:青空文庫