・・・第二ページはおかあさんの留守に幼少な娘のリエナが禁を犯してペチカのふたを明け、はね出した火がそれからそれと燃え移って火事になる光景、第三ページは近所が騒ぎだし、家財を持ち出す場面、さすがにサモワールを持ち出すのを忘れていない。第四ページは消・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ 列車車掌の室は各車台の隅にある。サモワールがある。ロシアのひどく炭酸ガスを出す木炭の入った小箱がある。柵があって中に台つきコップ、匙などしまってある。車掌は旅客に茶を出す。小型変電機もある。壁に車内備付品目録がはってあるのを見つけた。・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 上向けば女! 見下しゃ女! あっち向きゃ女! ここでまで女だ! えい、畜生! サモワールを俺さまが立てるてえのか? 俺あ貴様の何だ? 犬か? 亭主か?」 そして、たった四十だのにもう干物みたいになって終っているナースチャを、ボルティー・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・皆の服にブラッシをかけ、サモワールを沸かし、家じゅうの煖炉に薪を運んでおいて、食卓用の薬味入れを磨く。これだけが家での用事であった。店では床磨き、掃除、お茶の用意、お得意への品物配達、昼飯を家から運んで来ること。これらの仕事が、玄関番の役の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 夜がふけて見たら、サモワールの湯気で、凍った窓にそれよりもっと綺麗な氷華がついていた。 一九二八年のクリスマスは、クリスマスということを忘れてすごした。 雪をよごして零下十二度の夜焚火をする樅の木売りも、モスクワの目抜きの・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
出典:青空文庫