・・・ところが、これが写真の場合だとカメラのシャッターの開いている間の各瞬間における影像はことごとく重合し、その重合したぼやけくずれただらしのないものがフィルムに固定される。そういうぼやけたものを今度は週期的に一秒の何分の一の間隔をおいて投射し、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・毎秒にたとえば十六コマずつを撮影するとして、そのひとコマがまたシャッターの回転速度とそのセクトルの大きさによって規定されたある一定の長さの照射時間中に起こっただけのすべての事がらの重複した像を現わしていることである。これがために、いわゆるス・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・ 朝目がさめると「シャッター」の隙間から朝日がさし込んで眩いくらいである。これは寝過したかと思って枕の下から例のニッケルの時計を引きずり出して見るとまだ七時二十分だ。まだ第一の銅鑼の鳴る時刻でない。起きたって仕方がないが別にねむくもない・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 若葉でいっぱいに飾られたゴムの大樹、一面の芝原、うつむいて御馳走のふたをとろうとしていた淑貞が、にわかに頭を擡げた瞬間にシャッターがきられている。淑貞の「顔一杯の嬌笑、それは驚きと喜びと情熱の哄笑です。生々とした眸、むき出された雪白の・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫