・・・その彼へスープ一合、黄卵三個、肝油球。昼はお粥にさしみ、ほうれん草の様なもの。午後四時の間食には果物、時には駿河屋の夜の梅だとか、風月堂の栗饅頭だとかの注文をします。夕食は朝が遅いから自然とおくれて午後十一時頃になる。此時はオートミルやうど・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ それから神田の宝亭で、先生の好きな青豆のスープと小鳥のロースか何か食ってそして一、二杯の酒に顔を赤くして、例の蛙の鳴声の真似をして笑っていた。 考えてみると、あの時分の先生と晩年の先生とは何だかだいぶちがった人のような気がするので・・・ 寺田寅彦 「蛙の鳴声」
・・・ 赤楽の茶わんもトマトスープでも入れられては困るであろう。 寺田寅彦 「青磁のモンタージュ」
・・・ 夕飯はまずく、米粒入りのスープは塩からかった。夜またドームの広場まで行く。ちょうど満月であった。青ずんだ空にはまっ白な漣雲が流れて、大理石の大伽藍はしんとしていた。そこらにある電燈などのないほうがよさそうにも思われた。ドーム前の露店で・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・草色の羊羹が好きであり、レストーランへいっしょに行くと、青豆のスープはあるかと聞くのが常であった。「吾輩は猫である」で先生は一足飛びに有名になってしまった。ホトトギス関係の人々の文章会が時々先生の宅で開かれるようになった。先生の「猫」の・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・一日がとても長くて、しまいには歩いているのかどうかもわからなくなったり、泥が飴のような、水がスープのような気がしたりするのでした。風が何べんも吹いて来て、近くの泥水に魚のうろこのような波をたて、遠くの水をブリキいろにして行きました。そらでは・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・おまけに、スープに肉が入っている! 正餐をやすくしてみんなが食べられるようにし、夕食は一品ずつの注文で高くしたのはソヴェトらしく合理的だ。 Yはヴャトカへ着いたら名物の煙草いれを買うんだと、がんばっている。 車室は暖い。疲れが出て、・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ポーポー湯気がたって、美味そうな匂いがする。スープです。 別の当番の子供たちが、それを順ぐりにアルミの鉢に入れてくばる。 そこへ、「子供たち!」と、さっきの白髪の女先生が入って来ました。「一寸しずかにして下さい。そして、・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・是はスープもたっぷり一緒に呑める分量にしてはじめから水を入れておきます。家のお料理は疲れている時には、塩もつい余計と云う事になって定った分量をラジオの様に申しあげられません。何卒舌と御相談下さい。 ピローグ こ・・・ 宮本百合子 「十八番料理集」
・・・ 牛乳と、スープと重湯を時間をきめてたべさせるさしずに主婦は常よりも余程いそがしいらしかった。 只猫可愛がりになり勝な二十七になる女中は、主婦がだまって居ると、涼しい様にと、冷しすぎたものを持って行ったり、重湯に御飯粒を入れたり仕が・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
出典:青空文庫