・・・ センセーション。大センセーション。天才女優の出現。ああ、笑っちゃいけません。ほんとうなんですよ。おれのとこでは、梶原剛氏に劇評たのんだのだが、どうです、あのおじいさん涙を流さんばかり、オリガの苦悩を、この女優に依ってはじめて知らされた、と・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・従ってそれで完全に納得し、満足し、そうして自分では容易にできないのを他人のしてくれた殺人のセンセーションを享楽することができるのである。それがたとえ事実とどれほど離反していても、そんなことは元来加害者にも被害者にも縁故のない赤の他人の一般読・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 他人にわからない文壇生棲間のもつれでもあってのことだろうが、この全く非文学的なセンセーションは作者が希望するしないにかかわらず「絶壁」を問題作とする一助となり、モデルであると名のり出た人々を脚燈の前に立たせた。 センセーショナリズ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・何とかいう十九歳の百万長者の息子とこれも同様な大金持の十六歳の娘とがニューヨークで盛大極る結婚式を挙行してセンセーションを捲き起したというのである。愛すこと、結婚生活を営みたく思う心、そして父母とならんとする希望は、然しながら、百万長者の子・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・その他が生の緊張の美として一つのセンセーションを起し癩文学という通俗の呼び名が作者たちの忿懣を招いたこともあった。 現代のヒューマニズムは頽廃の中にあるとする高見順は、「描写のうしろに寝ていられない」という自身の理解から「十九世紀的な客・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 日本じゅうに非常なセンセーションがまきおこった。五日の午前九時すぎ下山総裁が三越で自動車をのりすててから死体となって発見されたまでのいきさつ。自殺か他殺であるかという重大な点も、すでに十日ちかくたったこんにち、まだ明瞭にされない。簡単・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・それが、当時では、云い難い一種のセンセーションを起させることで、自分の入学しようと言明する学校の名によって、その人の学術に対する自信が、裏書せられるように感じるのであった。 皆の入ろうとする処が判ると、暗黙の競争が行われ始める。一日おき・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
・・・記事は世間に不安なセンセーションをおこし反共の役を演じたままヤミに葬られた。その前後に十五歳になる少年数名が列車妨害で捕えられ、またこれもウヤムヤにひっこめられた。十五歳ぐらいの不良少年がチャリンコ適齢期であり、親分子分、兄貴とのつきあいを・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・嘗て、或る知名な女流歌人が右のような行為に出た時、都下の或る大新聞は、文化の最高指導者たるべき紙面を、全部その報告、ドキドキさせるようなロマンチック・センセーションで埋めまでした。寧ろ、悲惨な心持がせずにはいない。それほど、皆が心を動顛させ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・人民生活の底をついた経済窮乏から生じる国内問題をそらすために、わたしたちの目をあてどもなくあのことからこのことと走らせるために、落付いた分別を失わせるために、何がどうなのか正体もわからなくてただセンセーションばかりおこす事件が、次々となげ出・・・ 宮本百合子 「わたしたちには選ぶ権利がある」
出典:青空文庫