・・・そして第一部の長いソナタを一小節も聴き落すまいとしながら聴き続けていった。それが終わったとき、私は自分をそのソナタの全感情のなかに没入させることができたことを感じた。私はその夜床へはいってからの不眠や、不眠のなかで今の幸福に倍する苦痛をうけ・・・ 梶井基次郎 「器楽的幻覚」
・・・ このようにして連句の運動が進行するありさまはある度までたとえばソナタのごとき楽曲の構造に類する。この比較についてはかつて雑誌「渋柿」誌上で細論したからここには略するが、それと全く同じことが映画の律動的編成についても言われるのである。そ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・実際連句一巻の形式はソナタのごとき音楽形式とかなりまで類似した諸点をもつのである。連句が全体を通じて物語的な筋をもたないから連句は低級なものであると考えるのは、表題音楽が高級で、ソナタ、シンフォニーが低級であるというのと同様である。連句は音・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・また対比さるべきものであり、これに次いで来る第三すなわち終局部では再び前の主題が繰り返される。またソナタ形式ならば、第一主題、第二主題の次にいわゆる発展部が来てこれら主題に対する解答を試みる。これが活躍した後に、再び始めの第一、第二主題が繰・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・夜はソナタと讚美歌のいいのを弾いて見た。七月二十八日 この頃は割合に沢山考えた、事柄に於ては……けれども、自分で満足するように考えの及ぼした事もなければ又自分で少しは実になりそうだと思ったものなんかは一つもありゃしない。それ丈頭・・・ 宮本百合子 「日記」
出典:青空文庫