・・・機械文化の頂点を示すべき映画の中で、一人の職工は有り余っているべき動力の洪水の中にいながら、最も原始的なその筋肉エネルギーを極度に消費して大きなダイアルの針を回し、そうして、疲れ切って倒れ、そのために大破壊が起こったりする。あの魯鈍な機械に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・実物を出して見ると、六時の所はちょうど秒針のダイアルになっているのである。 こういう認識不足の場合はいいが、認識錯誤の場合にはいろいろの難儀な結果が生じる。盗難や詐欺にかかった被害者の女師匠などが、加害者でもなんでもない赤の他人の立派な・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ それとはまた別のことであるが昇降機の二つ三つ並んでいる前に立って、扉の上にあるダイアルに示された各機の時々刻々の位置の分布を注意して見ていると一つの顕著な事実に気がつく。それは、多くの場合に二つか三つの昇降機がほとんど並んで相角逐しな・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・農夫長はじき一時だと云い、時計もたしかにがちっと鳴り、それに針は二十分前、今朝は進んでさっきは合い、今度は十五分おくれている、赤シャツはぼんやりダイアルを見ていました。 俄かに誰かがクスクス笑いました。みんなは続いてどっと笑いました。す・・・ 宮沢賢治 「耕耘部の時計」
・・・ 丁度中間で、いくらダイアルをまわしても聴えて来る音楽もなかった。重吉は、いそいで紙片をまとめて身支度にとりかかった。ひろ子は、急にとりいそいだ気になって、「一寸待って。わたし、まだなんだから」 もう一つ自分の弁当をつめた。その・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫