・・・勝太郎の声のチャームがすっかり打消されてしまっている。この人の声はやはり唄三味線の絃の音色に乗るように練習して来たものである。 四 ある食堂の片隅の食卓に女学生が二人陣取ってメニューを点検していた。「何たべる・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・額から鼻へかけての対称的な白ぶちが彼女の容貌に一種のチャームを与えていた。著しく長くてしなやかなしっぽもその特徴であった。相当大きくなっていながら通りがかりの人に捕えられるくらいであるから鷹揚というよりはむしろ愚鈍であるかと思われた。しかし・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・総てに懐しい昔の錆が現われて、石に生えてる苔までが、私をチャームするのです。此処の前には、彼岸桜が美しく咲いていました。 其処に立っていますと、妙に感傷的になって思いは過去へ過去へと馳せて行くのでした。暫し想いを凝らせると、あの髪を角髪・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
出典:青空文庫