・・・という元ツァーの離宮だった町に、プーシュキンが学んだ貴族学校長の家が、下宿になっていた。そこで書いた。一九二八年の八月一日には、弟の英男が思想的な理由から二十一歳で自殺した。そのしらせを、「子供の村」の下宿でうけとった。「赤い貨車」は小説と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・臨時政府はツァーの絶対制を立憲政治へこぎつけるまでがせいぜいで、失業と飢との間から、労働者、農民は、真に彼等の生きようとする要求を理解し、組織し、実践する党はどこにあるか。それを理解しはじめた。 ブルジョア民主主義者に苦々しい背負投げを・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・彼等が闘いとった権力をもう二度とツァーに返すものかという決意が、まざまざ読みとれ、彼等はやはり言葉すくなに、携帯品預所でめいめいの手荷物をうけとり、職場へ戻って行くのであった。 日本のこの留置場の有様が、そうやって革命博物館の内にそっく・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・おまけにツァーはそのウォツカの税でうんと儲けて居た。革命後プロレタリアートは自分の完全な主人になった。が彼等に注ぎ込まれた毒の作用は急に消えない。中毒して本ものの病人もある。習慣的に賃銀を受とると飲んじゃう奴がある。五ヵ年計画で国じゅう真剣・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
・・・ ――お前、この世で一番偉い方は誰だか知っているか。 ――神さまです。 ――その次には? 子供は坊主の赤い鼻を見上げて機械的に答える。 ――ツァーです。 ――よし。お前は先ず神のおっしゃることを、即ちツァーのおっしゃ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・十月がツァーの重圧をとりのぞいた。デニキン、コルチャック、ウランゲルらによる国内戦と飢饉と大移動と、それにたいするボルシェヴィキの奮闘などは、ロシアの全人民に無限の経験とエピソードとをもたらした。全人口が「語るべき何事かを」生きたのであった・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ロシアのツァーリズムの絶対主義政治、ドイツのカイゼルの軍国主義政治その他中欧諸国で皇国とか、国王とかは、急速により民主的な権力に交替した。その中で社会生産のしくみまでを進歩させて、より人民の多数の生活向上の目的に沿う可能性がますような社会主・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・この二様の、自殺しなかったという行為の価値を、ただ、ロシアのツァーリズムの下における歴史の両面であって、どっちも等しく人間行為のねうちしかないものだと云って、承知する人があるだろうか。 無数の青年が無垢純一な心を、欺瞞によって刺戟激励さ・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・ツルゲーネフの進歩的なものに対する敏感さとともに特筆している意志の弱さ、優柔不断な気質などが作用して、彼は同時代の西欧派に属する芸術家、思想家でもニェクラーソフやベリンスキーがしたように、ロシアの中でツァーリズムの暗黒と日夜闘いつつ果敢に新・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ ロシアの艦隊が、その実質にはツァーの政府の腐敗を反映して、どんなものであったかということは、ソヴェトの海洋文学の作者ノヴィコフ・プリボーイの近作「ツシマ」が、私達に雄弁な描写を与えている。 アドミラル・トーゴーの勇名が世界に轟いた・・・ 宮本百合子 「花のたより」
出典:青空文庫