・・・たとえばまた自分の専攻のテーマに関する瑣末な発見が学界を震駭させる大業績に思われたりする。しかし、人が見ればこれらの「須弥山」は一粒の芥子粒で隠蔽される。これも言わば精神的視角の問題である。この見やすい道理を小学校でも中学校でもどこでも教わ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ ある日の午前に日比谷近く帝国ホテルの窓下を通った物売りの呼び声が、丁度偶然そのときそこに泊り合わせていた楽聖クライスラーの作曲のテーマになったという話があったようである。自分の怪しう物狂おしいこの一篇の放言がもしやそれと似たような役に・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・文学の科学的研究方法といったような大きなテーマが先生の頭の中に絶えず動いていたことは、先生の論文や、ノートの中からも想像されるであろうと思う。しかし晩年には創作のほうが忙しくて、こうした研究の暇がなかったように見える。 西片町にしばらく・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・こういう種類のテーマでまだ従来取り扱われなかったものを捜せばいくらでも見つかりそうな気がする。近ごろ見たニュースの中で実におもしろかったのはオリンピック優勝選手のカメラマイクロフォンの前に立ったときのいろいろな表情であった。言葉で現わされな・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・放逸乱雑を引きしめるために月花の座や季題のテーマが繰り返される。そうして懐紙のページによって序破急の構成がおのずから定まり、一巻が渾然とした一楽曲を形成するのである。 発句は百韻五十韻歌仙の圧縮されたものであり、発句の展開されたものが三・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・月が七句目のへんに来ているのは、表の月に照応してもう一度同じテーマを繰り返すことによって表の気分を継承した形である。そうして名残の表に移らんとする二句前に花が現われて、それがまさにきたらんとするほがらかな活躍を予想させるようにも思われる。さ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ こういう文章のたちと、こういうテーマの扱い方の小説は、今日めいめいの青春を生きている読者たちにとって、『白樺』の頃武者小路氏の文学が周囲につたえた新しい脈動とはおのずから性質の違った親愛、わかりよさに通じるようなものとして受けいれられ・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・衣、食、住、愛憎の問題だけを見ても、戦争中は、人間的な欲求の一切を抹殺した権力によって、そういうテーマは、すべて自然の文明的な主張をかくし、軍国主義への献身だけが強調された。小説にしろ、そうだった。大衆のこのみは、そこに追いこまれ、すべての・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・しかしテーマは、古代ペルシアの王と諸公の運命を支配していた封建的な関係。同じ社会的な条件で、その愛も全うされなかった男女、その間に生れた雄々しい若者。最後のクライマックスで、封建社会での王は最も頼みにしているルスタムの哀訴さえ自身の権勢を安・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・の中にふくんだ憲法をもつようになり、男女の人間的な対等が理解されて来たとき、四分の一世紀も前にかかれた「伸子」がこれまでになく広汎な各層の読者によまれているという事実は何を語っているだろう。「伸子」のテーマが今日の日本の若い女性の全生活にお・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
出典:青空文庫