・・・ このごろ見たうちで、アメリカの川船を舞台としたロマンスの場面中に、船の荷倉に折り重なって豚のように寝ているニグロの群れを映じてそれにものうげに悲しい鄙歌を歌わせるのがあった。これを聞いているうちに自分はアメリカの黒奴史を通覧させられる・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・にこの極東の島環国に集中した種族の数は決して二通りや三通りでなかったであろうということは、われわれの周囲の人々の顔の中にギリシア型、ローマ型、ユダヤ型をはじめインディアン型、マレイ型、エスキモー型からニグロ型までことごとく標本的に具備してい・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・その時に氷塊を持ってぬっと出現した偉大なニグロのボーイの顔が記憶に焼きつけられて残っている。それから、ウェザー・ビュローの若い学者と一緒にあるいた。ある公衆食堂で昼飯を食ったときに「君、デヴィルド・クラブを食ってみないか」というから、何だと・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・例により夜会服姿の黒奴に扮した舞踊などもあったが、西洋人ばかりの観客の中に交じった我々少数の有色人種日本人には、こうしたニグロの踊りは決して愉快なものではなかった。 パリの下宿はオペラの近くであって、自分の借りていた部屋の窓から首を出し・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・スーザンが、大理石にむかってニューヨークの街に溢れる群集の中からニグロの女をとらえて彫り、北国の老婆をとらえて彫って、尨大な独特なものをつくってゆくとき、ブレークは、軽い土の塑像を、才走って、奇矯にこしらえてゆく。 スーザンが仕事に規則・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・ジョセフィン・ベイカア一人、コティの翼にのって一度は栄華の空を翔んだとして、ニグロの女として彼女の運命の本質は些も改善されなかった。 今日の生活の文化は、このようないきさつで、白粉の箱一つにも絡まれている。それを、私たちは果してよく感じ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・アメリカに移民として働いている日本人の不正入国をしたものが何より恐れているのは、アメリカ人であるか、ニグロであるか、或は同じ日本人であるか。 科学者は科学的であるかという悲しい疑問が心に湧くのを抑えがたいのである。社会の歴史の或る波によ・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
フロベニウスの『アフリカ文化史』は、非常に優れた書であるとともにまた実におもしろい書である。そのおかげでニグロの生活は我々の追体験し得るものとなり、ニグロの文化は我々の理解し得るものとなる。我々はそれによっていわゆる未開人をいかに見る・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫