・・・セオソフィストたるタウンゼンド氏はハムレットに興味を持たないにしても、ハムレットの親父の幽霊には興味を持っていたからである。しかし魔術とか錬金術とか、occult sciences の話になると、氏は必ずもの悲しそうに頭とパイプとを一しょに・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・一二 今でもハムレットが深厚な同情をもって読まれるのは、ハムレットがこのディレンマの上に立って迷いぬいたからである。人生に対して最も聡明な誠実な態度をとったからである。雲のごとき智者と賢者と聖者と神人とを産み出した歴史のまっ・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・ウェルテルもジュリアンソレルもハムレットも、すべて皆二十代であった。八百屋お七の恋人は十七歳であったと聴く。三十面をさげてはあのような美しい狂気じみた恋は出来まいと思われるのである。よしんば恋はしても、薄汚なくなんだか気味が悪いようである。・・・ 織田作之助 「髪」
・・・受け取って、見ると、その頃私が発表した「新ハムレット」という長編小説の書評が、三段抜きで大きく出ていた。或る先輩の好意あふれるばかりの感想文であった。それこそ、過分のお褒めであった。私と北さんとは、黙って顔を見合せ、そうして同じくらい嬉しそ・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・あいつの横顔、晶助兄さんにそっくりじゃないか。ハムレット。」その兄は、二十七で死んだ。彫刻をよくしていた。「だって、私は男のひと、他にそんなに知らないのだもの。」Kは、恥ずかしそうにしていた。 号外。 女中は、みなに一枚一枚くば・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・二、三日中に、文芸春秋社から「新ハムレット」が出る筈です。それから、すぐまた砂子屋書房から「晩年」の新版が出るそうです。つづいて筑摩書房から「千代女」が、高梨書店から「信天翁」が出る筈です。「信天翁」には、主として随筆を収録しました。七月ま・・・ 太宰治 「私の著作集」
・・・胡桃の裏に潜んで、われを尽大千世界の王とも思わんとはハムレットの述懐と記憶する。粟粒芥顆のうちに蒼天もある、大地もある。一世師に問うて云う、分子は箸でつまめるものですかと。分子はしばらく措く。天下は箸の端にかかるのみならず、一たび掛け得れば・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・そう云っても「ハムレット」だの「オセロ」だの「リア王」だのを一つ一つ読んだりして理解することは一般民衆には出来ないのだから、一つあらゆるシェークスピアの作品を一つにぶちこんでとかして、その中から一つのストーリイをまとめて映画にでもすれば、日・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・せわしい夜の B'way 二十四日 ハムプテンのハムレット、和田と三人。和田の不自然な緊張と荒々しさが自分の心を苦しめた。風の激しく寒い日 二十五日 電話で、ワーレスロッジに行くことを告げる。 二十六日 夜電話にて話す・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・ どっかハムレットに似て居る。 オフィリアは居ないかしらん、 宮本百合子 「草の根元」
出典:青空文庫