・・・勇ちゃんは、ハーモニカを唇にあてて、姉さんの好きだった曲を、北風に向かって鳴らしていたのです。 小川未明 「青い星の国へ」
・・・実に無意味なおもちゃであるがしかしハーモニカやピッコロにはない俳味といったようなものがあり、それでいて南蛮的な異国趣味の多分にあるものであった。 むきになって理屈を言ってる鼻の先へもって来てポペンポペンとやられると、あらゆる論理や哲学な・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・其夜演奏が畢って劇場を出ると、堀端からはハーモニカや流行唄が聞え、日比谷の四辻まで来ると公園の共同便所から発散する悪臭が人の鼻を衝く。家に帰ると座敷の内には藪蚊がうなっていて、墻の外には夜廻の拍子木が聞えるのである。わたくしは芸術が其の発生・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・ まともな勤労人民の、文化的な欲求というものは、音楽でみれば職場のハーモニカ合奏団、コーラス団から、ショスタコヴィッチの第九シムフォニーをきいて見たいと思うところまで拡大している。初歩的な機械についての案内書から、資本主義の解説から、ト・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
出典:青空文庫