・・・手でも足でも思い切り自由に伸ばしたり縮めたりしてはね回っているけれども、その運動の均衡が実に安定であって、非常によくバランスのとれた何かの複雑なエンジンの運転を見ているような不思議な快感がある。 二人の呼吸が実によく合っている。そこから・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・ これとは話が変わるが、若い人にはとにかくとしても、もはや人生の下り坂を歩いているような老人にとっては、映画の観覧による情緒の活動が適当な刺激となり、それが生理的に反応して内分泌ホルモンの分泌のバランスに若干の影響を及ぼし、場合によって・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・近ごろ流行の言葉を使えば、体内各種のホルモンの分泌のバランスいかんが俳人と歌人とを決定するのではないかという気もする。これはしかるべき生理学者の研究題目になりうるのではないかと思われる。 それはいずれにしても、上述のごとき俳句における作・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・町全体が一つの薄い玻璃で構成されてる、危険な毀れやすい建物みたいであった、ちょっとしたバランスを失っても、家全体が崩壊して、硝子が粉々に砕けてしまう。それの安定を保つためには、微妙な数理によって組み建てられた、支柱の一つ一つが必要であり、そ・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・かくれてはいるけれども、何かの折にはその尻尾が事物の進行のバランスを狂わせて人間生活の紛糾や混乱をもたらす動機となっている。迷信だの、いろいろの事に対する偏見というものから今日人間が全く自由になっているということは決していい切れないのが実際・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・社会的に未熟であり、きょうからみれば、ヒューマニティーそのもののバランスを失っているところのある、ローレンスの作品を扱うにあたって露出された、戦後日本らしいよごれのあれこれについて考えさせられているのである。 現実のその苦しさから、・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・日本の民主化を鼻であしらっていない編集者たちは、一冊の雑誌に右と左とをバランスさせて、さしひきゼロ、功罪なしと採料して貰うために苦心しているように見える。これは、ひとごととして見てすぎられるようなことではない。 昨今はいよいよ、事実・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・それをよけようと四苦八苦してバランスをとりそこねている父。遂にころげ落ちた父が、哀れややっと起き直って前方を眺めると、自転車ばかりが非人情にも主人をのこして遙か彼方へ進行している。そういう絵がペンとインクで描いてありました。 子供たち私・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・ 日本のようについさきごろまで中世的絶対主義が支配していた国、ファシズムに対抗する人民の自主的結集のなかった国柄のところでは、今日、再燃するファシズムとバランス上からも、レフティストの存在は必要である。このことを一般は現実問題として理解・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・ 家庭生活をやってゆく、仕事をしてゆく、その心持のバランスの一方が我も知らずに、仲間への心持のなかにおかれているようなところも、今日ではあながち男だけの心でもないらしい。栄さん、稲子さん、私、三人仲間がもっともっと年をとって、いろんな思・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
出典:青空文庫