・・・ 食いしんぼうのレコード保有者でも少し風変わりなのは、パリのムシウ・シエールである。この人は一年間に宴会に出席すること四百回、しかも毎回欠かさずに卓上演説をしてのけたそうである。わが国でも実業家政治家の中には人と会食するのが毎日のおもな・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・があってパリの大通りのような単調な眠さがない。うっかりすると目を突きそうである。また雑草の林立した廃園を思わせる。蟻のような人間、昆虫のような自動車が生命の営みにせわしそうである。 高い建物の出現するのははなはだ突然である。打ち出の小槌・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・帰路仏国へ渡ってパリでも若干の講演を試みた。三月九日帰朝早々から風邪を引き、軽い肺気腫の兆候があるというので大事を取って休養していたが、一度快くなって、四月五日の工学大会に顔を出したが、その翌日の六日の早朝から急性肺炎の症状を発して療養効な・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・英国人が常識的健全なのは紅茶ばかりのんでそうして原始的なるビフステキを食うせいだと論ずる人もあるが、実際プロイセンあたりのぴりぴりした神経は事によるとうまいコーヒーの産物かもしれない。パリの朝食のコーヒーとあの棍棒を輪切りにしたパンは周知の・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・しかしそれよりもこの人に感心したのは氏が先年H子夫人と同伴で洋行したときに、パリ在住の通信員によって某紙上に報ぜられたこの夫妻の行動に関する記事を読んだときである。パリのまん中でパリジャンを「異人」と呼び、アンバリードでナポレオンの墓を見て・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・一九二九年の春から十二月初旬までパリ、ロンドン、ベルリンなどに行ったが。 モスクワでの生活と、その生活の感銘をもって比較しずにいられなかったロンドンやパリ、ベルリンの生活から、作者は真に資本主義社会の生活と社会主義社会での生活との相異を・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・が組織され、一九三六年には小松清によって、その前年の夏、パリに開かれた文化擁護のための「国際作家大会」と、その成果である同じ名の連盟の誕生が紹介された。これは一九三四年八月、モスクワで第一回文化擁護国際作家大会がもたれたとき、フランス代表と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・招待された作家たちの全部が出席することは出来なかったらしいけれども、この大会が与えた文化の守りについての深い感動と認識にたって、翌る年の一九三五年六月にパリで第一回文化擁護国際作家大会がひらかれた。この大会には、ドイツ、イタリア、日本をのぞ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・十二年前、二人の娘とカルタで負けた借金をのこして良人が死んだ後、子供を育て、借金をかえし、現在ではパリで有名な衣裳店を開いている美しい中年の寡婦ジェニファーが、或る貴族の園遊会でコルベット卿にめぐり会い、その偶然が二人を愛へ導いて結婚するこ・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・そして彼女の腹違いの妹のシルヴィが、生粋のパリの市民で――プロレタリアートで、イリュージョンを持たず、機智的で実務家で、恋愛と結婚とをはっきり区別し、「そりゃ恋人には危っかしくたって面白い人がいいけど、良人には、一寸退屈だって永持ちのする確・・・ 宮本百合子 「アンネット」
出典:青空文庫