・・・私小説にゆきづまり、日本文学の社会性のせまさ、弱さに、自繩自縛されたいわゆる純文学者たちは、戦争という大事件とそのヒロイズムによって、貧弱な文学の基ばんを拡げ新しくすることができるだろうと自分たちに期待したことは、幻想にすぎないことが証明さ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ダヌンツィオが飛行機で飛びまわってヒロイズムを発揮したような時代からこのかた、今日の世界の動きとその間に生きる作家の気持とは、いか程多角的に、観察と沈着と現実に対する透徹した洞察力を求めるところへ進んで来ていることであろう。吉川氏でさえその・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 人道主義的なセンチメンタリズムを蹴たおして、仮借なく現実を踏み越えて生きようとする気組も、作品として十分の落付いた肉づけ、客観的な描破力を伴わないと、結果としては案外に単純な神経性ヒロイズムやスリルの追求に堕す危険をもつのである。・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・つまり文学というものに連関して私たちの感情の中にとかく刺戟されやすいブルジョア的な個人的ヒロイズムや、それに対する個人的な反感などというものをわたしたちは、階級の全線的な関係からみてゆけるように文学感覚そのものにおける政治性をたかめてゆかな・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・過去百年の間にロシアのインテリゲンツィアがなした準備、「彼等が労働者の心に社会的ヒロイズムと教養とを与えたから」こそ今、「十月」を招来せしめたと見るゴーリキイには、レーニンが、インテリゲンツィアを新社会の指導力の中心に置かぬことを理解しかね・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・人一人であり、なみの人間であり、而もそれらの何の奇もない人間が、避けがたき事情の下に万難を冒して自分の生涯を賭しているからこそ、私たちの心持は歴史の深刻な意義とともに深く動かされるのであると思います。ヒロイズムの自己陶酔は私たち女を愚劣にし・・・ 宮本百合子 「身ぶりならぬ慰めを」
わたしの青春について語るとき、そこには所謂階級的なヒロイズムもないし、勤労者的な自誇もない。そこにあるのは一九一四、五年から二三、四年にかけての日本の中流的な家庭のなかで、一人の少女が次第に人間としてめざめてゆく物語がある・・・ 宮本百合子 「私の青春時代」
出典:青空文庫