・・・これらの点をなお多く精密に数えて、そして綜合して一考しまする時は、なるほど馬琴の書いたようなヒーローやヒロインは当時の実社会には居らぬに違い無いが、しかし馬琴の書いたヒーローやヒロインは当時の実社会の人々の胸中に存在して居たもので、決して無・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・という映画に、ヒーローの寝ころんで「ナポレオンのイタリア侵入」を読んでいる横顔へ、女がいたずらの光束を送るところがあったようである。 四 ドライヴ 身体の弱いものがいちばんはっきり自分の弱さを自覚させられて不幸に感・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・まずいかにしてヒーローとヒロインを「紹介」すべきか、全編をいくつの場面に分割すべきか、一つ一つの場面にいかなる造型的視覚的素材を用ゆべきかを考えなければならない。すなわち物語を「モンタージュ画像」の言葉に翻訳しなければならない。この際におけ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・人夫がヒーローの帽子を失敬しようとする点まで全く同工異曲である。これは偶然なのか、それともプログラム編成者の皮肉なのか不明である。 凡児が父の「のんきなトーさん」と「隣の大将」とを上野駅で迎える場面は、どうも少し灰汁が強すぎてあまり愉快・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・手に持っている品物をないないと言って騒ぐのは、漫画のヒーロー「あわてものの熊さん」ばかりではない。 留守にたずねて来た訪問客がだれだかよくわからない場合に、取り次いだ女中に「鬚があったか、なかったか」と聞いてみると、大概の場合に、はっき・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・彼等の中で、比較的忠実に読んだ人さへが、単なる英雄主義者として、反キリストや反道徳の痛快なヒーローとして、単純な感激性で崇拝して居たこと、あたかも大正期の文壇でトルストイやドストイェフスキイやを、単なる救世軍の大将として、白樺派の人々が崇拝・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ 私はヒーローから、一度に道化役者に落ちぶれてしまった。此哀れむべき婦人を最後の一滴まで搾取した、三人のごろつき共は、女と共にすっかり謎になってしまった。 一体こいつ等はどんな星の下に生れて、どんな廻り合せになっているのだ。だが、私・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・世人がすべてこれに傾向する時 To thee be all man Hero の境地はますます明らかになるであろう。ソシアリティの本義も恐らくはここである。深山に俗塵を離れて燎乱と咲く桜花が一片散り二片散り清けき谷の流れに浮かびて山をめぐり・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫