・・・しかしまたピンヘッドやサンライズを駆逐して国産を宣伝した点では一種のファシストでもあったのである。彼もたしかに時代の新人ではあった。 旧時代のハイカラ岸田吟香の洋品店へ、Sちゃんが象印の歯みがきを買いに行ったら、どう聞き違えたものか、お・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ 七 ファシストはアルプスを愛し、リベラリストはラインやエルベの川の景色を、マルキシストはツンドラや砂漠の景色を好むかもしれない。松やもっこくやの庭木を愛するのがファシストならば、蔦や藤やまた朝貌、烏瓜のよう・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・それで政治家、軍人、実業家、ファシスト、マルキシスト、テロリスト、いずれもこんな不定な未来の事は問題にしていない。それを問題にするのはただ一部の科学者と、それから古風な宗教の信者とだけである。いちばん仲の悪いはずの科学者と信者とがここだけで・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・末娘のエリザベート・マンがピアニストで、イタリーの反ファシスト評論家ボルゲーゼと結婚しているそうである。 内山氏の紹介によると、エリカ・マンは一九〇五年生れで、日本流にかぞえれば四十四歳になっている。幼年時代を、たのしく愛と芸術的な空気・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・世界民主主義婦人連盟、反ファシスト同盟、人権擁護同盟そのほかに属している婦人たちの数も少くない。これらの婦人たちが切実に要求しているのは平和であり、民主的であってゆたかな生活の安定であった。その事実を選挙によって表現し、政策をその方向に動か・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・三鷹事件、下山事件の新聞記事の扱いかたなどにしてもファシスト的な挑発の調子がつよいとみんなが感じている。 こんにちにおけるファシズムとの闘いの非常に微妙な点は、わたしたち一人一人の市民的抵抗がどんなにつよくあらねばならないかという点につ・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・マルクシストであったものこそファシストになるべきとされた。ここに、おどろくべく深い人間精神虐殺の犯罪性の一つがひそんでいる。転向して生を守ろうと欲する人は、自分にも他人にも顔向けのできない思いで、うそをつき、仮面をつけて、現れなければならな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・そのうちで、戦闘員だったものは千五百万人、最低その三倍の非戦闘員が、空襲とナチスやファシストの強制収容所、地下の抗戦運動で殺害されている。日本の軍部は、太平洋戦争で百八十五万人を死なせた。全国には百八十万人の未亡人が飢餓線に生きている。千円・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・この映画の語る範囲では現在ファシストの国で云われている「脱出」が本質に於ては新しいものではなく、旧い植民地政策のより一般化されたアジテーションであるとしか見えない。世界の文化の問題から見れば、イタリーの一般知識人の中にあるハケ口のない脱出の・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 最近あらわれた元看守のファシストである暗殺者さえ、属する団体は民主化同盟という名をもっている。もういっそう手のこんでいる政治的な場面では、封建的というどんな表現さえもつかわずに、日本の封建性が旧勢力の利益のために最大限につかわれている・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
出典:青空文庫