・・・おれはね、あの大谷先生の詩のファンなのですよ。おれもね、詩を書いているのですがね。そのうち、大谷先生に見ていただこうと思っていたのですがね。どうもね、あの大谷先生が、こわくてね」 家につきました。「ありがとうございました。また、お店・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・小生儀、異性の一友人にすすめられ、『めくら草紙』を読み、それから『ダス・ゲマイネ』を読み、たちどころに、太宰治ファンに相成候ものにして、これは、ファン・レターと御承知被下度候。『新ロマン派』も十月号より購読致し、『もの想う葦』を読ませて戴き・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・五十米レエスならば、まず今世紀、かれの記録を破るものはあるまい、とファン囁き、選手自身もひそかにそれを許していた、かの俊敏はやぶさの如き太宰治とやらいう若い作家の、これが再生の姿であろうか。頭はわるし、文章は下手、学問は無し、すべてに無器用・・・ 太宰治 「答案落第」
・・・お断りして置きますが、これはファン・レタアではございませぬ。奥様なぞにお見せして、おれにも女のファンが出来たなんて下品にふざけ合うのは、やめていただきます。私はプライドを持っています。」 菊子さん。だいたい、こんな手紙を書いたのよ。貴下・・・ 太宰治 「恥」
・・・「あなたは?」「僕ですか?」 青年は蓬髪を掻き上げて笑い、「まあ、一介のデリッタンティとでも、……」「何かご用ですか?」「ファンなんです。先生の音楽評論のファンなんです。このごろ、あまりお書きにならぬようですね。」・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・ 録音と発音の機械的改良が進展して来る一方でまたトーキーファンの聴覚が訓練されて来れば、発声映画の可能性はさらに拡張されるであろう。点滴の音によってその室の広さを感じ、雷鳴の響きによって山の近さを感じることも可能になるであろう。 と・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・といったようなものがロシア農民と日本のファンとで著しくちがうためではないかと思われる。そうしてこれがまた、この映画が日本あるいは東京の一般活動愛好者の感激を促し得ない理由であろうと想像される。 この上記の点で著しく対蹠的のコントラストを・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかしあのろうそくの炎の不定なゆらぎはあらゆるものの陰影に生きた脈動を与えるので、このグロテスクな影人形の舞踊にはいっそう幻想的な雰囲気が付きまとっていて、幼いわれわれのファンタジーを一種不思議な世界へ誘うのであった。 ジャヴァの影人形・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・また後庭林中の夜のラヴシーンはシュヴァリエ・マクドナルドの賛美者たる若きファンのための独参湯としてやはり欠くべからざる一要件であろう。それからまた鹿狩りの場に現われた貴族的なスポーツ風景は国粋主義の紳士淑女を喜ばすものであり、シャトーにおけ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・現在の映画ファンの中の堅実な分子の中から総理大臣文部大臣以下各局長が輩出する時代が来て始めて私の夢は実現されるかもしれない。しかしそういう日の来ないうちに不良映画の不良教育を受けた本当の不良が天下を溺らすようにならないとは限らない。そうなら・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
出典:青空文庫