・・・熊本君は、紺絣の袷にフェルト草履、ステッキを持っていた。なかなか気取ったものであった。佐伯は、れいの服装に、私の着物在中の風呂敷包みを持ち、私は小さすぎる制服制帽に下駄ばきという苦学生の恰好で、陽春の午後の暖い日ざしを浴び、ぶらぶら歩いてい・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・はき馴れぬフェルト草履で、歩きにくいように見えた。日比谷。すきやばし。尾張町。 こんどはステッキをずるずる引きずって、銀座を歩いた。何も見なかった。ぼんやり水平線を見ているような眼差で、ぶらぶら歩いた。落葉が風にさらわれたように、よろめ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・私は絹のものを、ぞろりと着流してフェルト草履をはき、ステッキを振り廻して歩く事が出来ないたちなので、その絹のものも、いきおい敬遠の形で、この一、二年、友人の見合いに立ち合った時と、甲府の家内の里へ正月に遊びに行った時と、二度しか着ていない。・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・いつもバンドのとれたよごれた鼠色のフェルト帽を目深に冠っていて、誰も彼の頭の頂上に髪があるかないかを確かめたものはないという話であった。その頃の羅宇屋は今のようにピーピー汽笛を鳴らして引いて来るのではなくて、天秤棒で振り分けに商売道具をかつ・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・ Muroto Zaki and at Shanghai in 1919 to facilitate warnings of coming cyclones. In the meantime, he felt the need of fou・・・ 寺田寅彦 「PROFESSOR TAKEMATU OKADA」
・・・etly waiting the fatal shock;The axe it severed it right in twain,And so quick―so true―that she felt no pain. ・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ 冬だと、誰でも靴の上にもう一つ重ねてフェルトの厚ぼったい防寒靴をはいて外を歩くのだが、ところによると映画館でもそれを脱がなければならないところがある。そして、下足に預ける。皆がそれをやるからひどい混雑でいやな思いもする。近所のその映画・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・! Cherish your heart, my dear “Chame”! How can I leave you ! I woke up early again this morning and felt “Chame's” unsee・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・その服を着て、海老茶色のラシャで底も白フェルトのクツをはいた二十九歳の母が、柔かい鍔びろ経木帽に水色カンレイシャの飾りのついたのをかぶって俥にのって出かけたとき、三人の子供たちと家のものとは、美しさを驚歎してその洋服姿を見送った。若い母は、・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ From Annette & Sylvie “Annette felt that, alone, she was incomplete; incomplete in mind, body and heart.”・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫