・・・いまだ嫁がず、鉄道省に通勤している。フランス語が、かなりよくできた。脊丈が、五尺三寸あった。すごく、痩せている。弟妹たちに、馬、と呼ばれることがある。髪を短く切って、ロイド眼鏡をかけている。心が派手で、誰とでもすぐ友達になり、一生懸命に奉仕・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・おまけに大学者で、学習院から一高、帝大とすすんで、ドイツ語フランス語、いやもう、おっそろしい、何が何だか秋ちゃんに言わせるとまるで神様みたいな人で、しかし、それもまた、まんざら皆うそではないらしく、他のひとから聞いても、大谷男爵の次男で、有・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ボオルドには、フランス語が五六行。教授は教壇の肘掛椅子にだらしなく坐り、さもさも不気嫌そうに言い放った。 ――こんな問題じゃ落第したくてもできめえ。 大学生たちは、ひくく力なく笑った。われも笑った。教授はそれから訳のわからぬフランス・・・ 太宰治 「逆行」
・・・私には、あの人たちほどフランス語が話せない。そこに、その茶店の床几に、私は、この少年を連れていって、さっきの悪罵の返礼をしようと、たくらんでいたのである。私を、あまりにも愚弄した。少し、たしなめてやらなければならぬ。 若い才能と自称する・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・君はたしかにずば抜けて語学ができる様子だから、僕たちの書いた原稿をフランス語に直しておくれ。アンドレ・ジッドに一冊送って批評をもらおう。ああ、ヴァレリイと直接に論争できるぞ。あの眠たそうなプルウストをひとつうろたえさせてやろうじゃないか。コ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・女学生が、読めもしないフランス語の詩集を持って歩いているのと、ずいぶん似ている。あわれな、おていさいである。パラパラ、頁をめくっていって、ふと、「汝もし己が心裡に安静を得る能わずば、他処に之を求むるは徒労のみ。」というれいの一句を見つけて、・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・そう言われてみると、ドイツ語でもフランス語でも、貨幣はちゃんと女性名詞という事になっていますからね。鬚だらけのお爺さんのおそろしい顔などを印刷するのは、たしかに政府の失策ですよ。日本の全部の紙幣に、私たちの母の女神の大笑いをしている顔でも印・・・ 太宰治 「女神」
・・・大学へはいり、フランス語が下手で、屈辱の予感からほとんど学校へ出なかった。文学に於いても、私は、誰のあなどりも許すことが出来なかった。完全に私の敗北を意識したなら、私は文学をさえ、止すことが出来る。 けれども私は、或る文学賞の候補者とし・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・いまだ嫁がず、鉄道省に通勤している。フランス語が、かなりよく出来た。背丈が、五尺三寸あった。すごく、痩せている。弟妹たちに、馬、と呼ばれる事がある。髪を短く切って、ロイド眼鏡をかけている。心が派手で、誰とでもすぐ友達になり、一生懸命に奉仕し・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ドリスはフランス語を旨く話す。立居振舞は立派な上流の婦人であって、その底には人を馬鹿にした、大胆な行を隠している。ピアノを上手に弾いて、クプレエを歌う。その時は周囲が知らず識らずの間に浮かれ出してしまう。先ずこんなわけで、いつの間にかポルジ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
出典:青空文庫