・・・ フランス語がわからなくて残念であるが、考えようによっては、それがわからないために、それのわかる人にはわからないおもしろみもあるであろう。たとえ言葉はわかっても結局パリっ子でない日本人が見たパリっ子はどうしてもパリっ子の見たパリっ子とは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・英語やドイツ語やフランス語の風景という言葉にしても、それがわれわれのいう風景とはたしてどこまで内容的に一致するかも研究に値する。それはいずれにしても、日本のように多種多様な地質気候がわずかな距離の範囲内で錯雑した国であってこそ、はじめて風景・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・マッチも高かったと思うが、それよりもマッチのフランス語を教わって来るのを忘れていたためにパリへ着いて早速当惑を感じた。ドイツで教わったフランス語の先生が煙草を吸わないのがいけなかったらしい。とにかく金がないのに高い煙草を吸い、高いマロン・グ・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・シューというのはフランス語でキャベツのことだとS君が当時フランス語の独修をしていた自分に講釈をして聞かせた。 運命の神様はこの年から三十余年後の今日までずっと自分を東京に定住させることにきめてしまった。明治四十二年から四年へかけて西洋へ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・それから、きょうはどうもドイツ語や英語で話すのは大儀で苦しいからフランス語で話したいが聞いてくれるかという。自分はフランス語はいちばん不得手だがしかしごくゆっくり話してくれればだいたいの事だけはわかるつもりだと言ったら、それで結構だと言って・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・感覚的なものの内に深い思想を見るのである。フランス語の「サンス」 sens という語は他の国語に訳し難い意味を有っている。それは「センス」sense でもない、「ジン」 Sinnでもない。マールブランシュはいうまでもなく、デカルトにすらそれ・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・高野岩三郎氏が死去されたのちNHKの会長となった古垣鉄郎氏は、英語もフランス語も達者であろうし、行儀がいいことが必要な時と場合の分別もあり、貴族院議員だったし、文化人であろうけれども、NHKは、新会長によって会長流民主化におかれざるを得ない・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・という小説は、ヨーロッパの文化の間でも女の教養というものが飾りとして、嫁入道具としてだけ与えられていた結果、いざ本当にそれで食わなければならないとなったときに、知っていたはずのフランス語もピアノも絵も、生活の役に立たないことが証明されて、悲・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・まして、ロシアの農村で、文学的作品がどう理解されるかなどということは、問題ではなかった。フランス語を喋るロシア人は「農民の芸術に対する野蛮性」をテンからきめてかかっていた。 十月革命は、社会制度の根本的な建て直しとともに、文学をロシアの・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ パリといえば緑郎から昨日八ヵ月かかって手紙が来ました。フランス語でない切手がはられて、二つのセンサーを通って。結婚の話が要件で、あちらで知った日本の娘さんで声楽を勉強している人、カネボウの重役とかの娘で、小さい写真が入っていますが、ち・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫