・・・ トルストイの芸術はどんな階級の者にでも一様にフレッシュな痛烈な感激を与えている。独りトルストイばかりでなく、真の芸術家によって作られた作品は、決して特殊な階級にのみ限られた芸術でない。其作品の中には急進主義者の姿もあれば、時として保守・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・しかしそれには少しもフレッシュなところがなかった。むしろ南京鼠の匂いでもしそうな汚いエキゾティシズムが感じられた。そしてそれはそのカフェがその近所に多く住んでいる下等な西洋人のよく出入りするという噂を、少し陰気に裏書きしていた。「おい。・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・けれども、全部に負けた、きれいに負けたと素直に自覚して、不思議にフレッシュな気配を身辺に感じることも、たまにはあった。人間はここからだな、そう漠然と思うのであるが、さて、さしあたっては、なんの手がかりもなかった。 このごろは、かれも流石・・・ 太宰治 「花燭」
・・・にしろ、取材はわるくなく、細部にフレッシュなところがあるのに、全篇の印象が何故か読者の胸にぴたりとしないのはどういうものだろう。読んでゆくうちに心が吸いよせられ、アブゾーブされ切れない。或る点まで牽きよせられ、もう一つというところで何ともし・・・ 宮本百合子 「読者の感想」
出典:青空文庫