・・・周章てて急坂を駈下りて転がるように停車場に飛込みざま切符を買った処へ、終列車が地響き打って突進して来た。ブリッジを渡る暇もないのでレールを踏越えて、漸とこさと乗込んでから顔を出すと、跡から追駈けて来た二葉亭は柵の外に立って、例の錆のある太い・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・が来ている。ブリッジの階段をコトコト昇りながら、ナンジャラホイと思った。ばかばかしい。私は、少し幸福すぎるのかも知れない。 けさの小杉先生は綺麗。私の風呂敷みたいに綺麗。美しい青色の似合う先生。胸の真紅のカーネーションも目立つ。「つくる・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・たとえば、宵の私の訪問をもてなすのに、ただちに奥さんにビールを命ずるお医者自身は善玉であり、今宵はビールでなくブリッジいたしましょう、と笑いながら提議する奥さんこそは悪玉である、というお医者の例証には、私も素直に賛成した。奥さんは、小がらの・・・ 太宰治 「満願」
・・・継ぎ歯、金冠、ブリッジなどといったような数々の工事にはずいぶんめんどうな手数がかかった。抜歯も何本か必要であったが、昔とちがってコカインのおかげでたいした痛みはなかった。ただし、左の下あごの犬歯の根だけ残っていたのが容易に抜けないので、がん・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 読者諸君も、中学へあがられると、たぶん教わると思うが、ナショナルリーダーの三に「マンキィ、ブリッジ」という課がある。手の長い猿共が山から山へ、森から森へ遊びあるいて、ある豁川にくると、何十匹の猿が手をつないで樹の枝からブラ下り、だんだ・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・ メーツは、ブリッジで、涼風に吹かれながら、ソーファーに眠っていたが、起き上って来て、「どうしたんだ」「左舷に燈台が見えますが」「又、一時間損をしたな」と、メーツは答えて、コムパスを力一杯、蹴飛ばした。 コンパスは、グル・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ ――フーッ! ――何か起ったの? ――むこうの軟床車の下で車軸が折れたんです。もうすこしでひっくりかえるところだった。 ブリッジへ出て両手でわきの棒へつかまり、のり出して後部を見わたしたら、深い雪の中へ焚火がはじまっている・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・急行は何方につくのかときいて見ると、ブリッジを渡った彼方だと云う。A、バスケット、かんづめ包をふりわけにし、自分は袋、水とう、魚カゴを下げ、いそぎブリッジを渡って、彼方できくと、彼方側だと云う。又、今度は時間がないのでかけて元の方に下り、人・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
出典:青空文庫