・・・の翻訳文学が一方にあり、福沢諭吉の新興ブルジョアジーの啓蒙者としての活動が重大な指針となった時代が去った後は、徳川末期の戯作者の気風、現実に対する無批判な妥協的態度が、西欧の文学的潮流の移植の側らにあって、常に日本の近代性の中に含まれている・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 現実生活の内部の矛盾は、行動主義文学者によってブルジョアジーと知識階級人一般の良心との激化する対立としてとりあげられたのであるが、日本におけるヒューマニズムの文学が提唱後四年経た今日に至っても未だ一種模糊退嬰の姿におかれているのは、社・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・然し貴族と僧侶に反抗したブルジョアジーが自身を支配階級として確立して生産手段を次第に独占するにつれて、彼らの文化に矛盾が現れて来た。労働と消費とがそれぞれに違った階級に属していること、肉体労働と精神労働とが極端に分裂していること、労働の極端・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・廃的なブルジョア・インテリゲンツィアの典型的代表者であり、うぬぼれのつよい個人主義者であるジイドのブルジョア的良心がどうしても和解することが出来ない多くのものがソヴェトには在り、ジイドの怒りは反動的なブルジョアジーの無力な敵意を反映している・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・日本の歴史は明治に移った。明治維新は近代のヨーロッパ社会に勃興した市民階級が封建社会に君臨した王権を転覆し歴史を前進させた革命ではなかった。日本のブルジョアジーが薩長閥によって作られた政府の権力と妥協し、形を変えて現れた旧勢力に屈従すること・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ ブルジョア民主主義の達成が眼目ではあるけれども、その歴史的担当者であるブルジョアジーというものは、日本ではヨーロッパ諸国のブルジョアジーとまったく違った経歴をもってきています。明治維新に新しい権力者となった封建領主、下級武士たちが半封・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・近代の歴史の担当者として現れたブルジョアジーは、王権を否定して市民の権利を確立すると共に、ルーテルを先頭に立てて、法王に統率され経済的政治的に専制勢力の柱である天主教の仕組を否定した。そして、市民一人一人の精神の内に在る神としてのキリスト教・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・p.16 しかし、小ブルジョアジーの世界観の枠内にとどまっている以上、思索する「自我」を救い出し発展させる可能はない。 宮本百合子 「「敗北の文学」について」
・・・ 七月革命で、ブルジョアジーの利害の代表者としてのルイ・フィリップが王位に置かれた後は財界の覇者、金銭の威力は極度にふるわれ、企業家で金持ちの成上り貴族によって土地所有者である旧貴族は全く圧倒されるようになった。フランスの社会は、「新た・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・従って自分の臍の緒を繋ぐ階級が文化の宣伝具としてジャーナリズムを統制してゆけば、その統制に応じて執筆者、大小作家がその統制に服してくるのは当り前だ。ブルジョアジーがファッショ化すれば、ブルジョア作家はファッショ化する。この関係は切っても切れ・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
出典:青空文庫