・・・そうしてことに私のように、詩を作るということとそれに関聯した憐れなプライドのほかには、何の技能ももっていない者においていっそう強く享けねばならぬものであった。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 詩を書いていた時分に対する回想・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・とあたかも軍令部長か参謀総長でもあるかのようなプライドが満面に漲っていた。恐らくこの歓喜を一人で味ってられないで、周章てて飛んで来たのであろう。九 二葉亭の破壊力 二葉亭に親近した或る男はいった。「二葉亭は破壊者であって、人・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・つまらない事を気にかけず、ちゃんとプライドを持って、落ちついていなさいよ。僕はいつでも、君の事ばかり思っているんだ。その点に就いては、君は、どんなに自信を持っていても、持ちすぎるという事は無いんだ。」 といやにあらたまったみたいな、興ざ・・・ 太宰治 「おさん」
・・・誰も見た事の無いものを私はいま見ている、このプライド。やがてこれを如実に描写できる、この仕合せ。ああ、この男は、恐怖よりも歓喜を、五体しびれる程の強烈な歓喜を感じている様子であります。神を恐れぬこの傲慢、痴夢、我執、人間侮辱。芸術とは、そん・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・心の中で、遠い大きいプライドを持って、こっそり生きていたいと思います。あなたは私の、財布の中まで、おしらべになるようになりました。お金がはいると、あなたは、あなたの大きい財布と、それから、私の小さい財布とに、お金をわけて、おいれになります。・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・「僕には、プライドがあるんだ。このごろ、だんだんそいつが、僕を小使みたいに扱って来たんだよ。奥さんも、いけないんだがね。とうとう、きのう我慢出来なくなっちゃって、――」「僕は、つまらないんだよ、そういう話は。世の中の概念でしか無い。歩け・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・たった一つ、芥子粒ほどのプライドがある。それは、私が馬鹿であるということである。全く無益な、路傍の苦労ばかり、それも自ら求めて十年間、転輾して来たということである。けれども、また、考えてみると、それは、読者諸君が、これから文豪になるために、・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・ひとりよがりだ。プライドだけで生きている。」「ひとの噂だけを気にしていて、」Kは、すらと湯槽から出て、さっさとからだを拭きながら、「そこに自分の肉体が在ると思っているのね。」「富めるものの天国に入るは、――」そう冗談に言いかけて、ぴ・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・それがもう、いまでは、おれの唯一の、せめてものプライドなんだから。」とかねて妻に向って宣言していたのですが、「その時」がいま来たように思われました。 窓外の風景をただぼんやり眺めているだけで、私には別になんのいい智慧も思い浮びません。或・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・まは弟の居候という事になって何一つ見るべきところの無い生涯で、いまさら誰をも、うらむ資格も何もございませんが、けれども、それでも、ああ、あの時あの女が、あれほど私に意地悪くしなかったならば、私も多少のプライドと力を得て、ダメはダメなりに何と・・・ 太宰治 「男女同権」
出典:青空文庫