・・・トランプの遊びのように、マイナスを全部あつめるとプラスに変るという事は、この世の道徳には起り得ない事でしょうか。 神がいるなら、出て来て下さい! 私は、お正月の末に、お店のお客にけがされました。 その夜は、雨が降っていました。夫は、・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・そうしてそれが立派にプラスの生活だ。死ぬなんて馬鹿だ。死ぬなんて馬鹿だ」 生れてはじめて算術の教科書を手にした。小型の、まっくろい表紙。ああ、なかの数字の羅列がどんなに美しく眼にしみたことか。少年は、しばらくそれをいじくっていたが、・・・ 太宰治 「葉」
・・・「そうよ、そうよ。プラスよりも、マイナスがずっと多いのよ。だからそんなに黄色く濁っているんだ。わあい、だ。」「生意気を言ってやがる。」 兄さんは、ぶっとふくれて隣りの六畳間に引込みました。・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
・・・そこから生まれる効果は一プラス一が二になる代わりに三になり四になり十になるようである。同じようなことをしばしば菊五郎三津五郎の踊りで見ることがある。 アステーアという男もロジャースという女もはじめのうちは変な男妙な女にしか見えなかったが・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・四十二度にと云えば、そんなに熱くてもいいのかと驚きはするが、ちゃんと四十二度プラスマイナス〇・何度にしてくれるのである。もちろんこれは湯沸しの装置がうまく出来ているから、そういう温度の調節が誰にでも容易に出来るのであって、われわれの家の原始・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・ 十四日 雪隠でプラス、マイナスと云う事を考える。 十五日 今日のようなしめっぽい空気には墓の匂いが籠っておるように思う。横になって壁を踏んでいると眼瞼が重くなって灰吹から大蛇が出た。 十六日 涼しいさえさえした朝だ。まだ光の弱・・・ 寺田寅彦 「窮理日記」
・・・しかし実際の個々の時間間隔は、南行の最初における十一分三秒プラスという極端から、わずか十二秒という短い極端まで変化している。しかして多少の除外例はあるにしても、だいたいにおいて長い間隔の後には比較的混雑した車が来る事、短い間隔の後にはすいた・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・また一つ忘れてならぬ事はこれらの微小な残余の項が多くはいわゆる偶然の方則に従って分布され、プラスとマイナスとが相消去するために結果が蓄積せぬ事である。一定の位置並びに寒暖計の示す温度において測った金属棒の長さは、不可測的の雑多な微細な原因の・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・かりにあるものの変位がプラスであれば緊張、マイナスであれば弛緩の状態を表わすとしたところで、その「もの」がなんだかわからなければその質量に相当するものも、弾力に相当するものもわかりようはない。従ってこれが数学的の取り扱いを許されるまでにはあ・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・ 自然は、人間の恋愛を唯だ男性と女性との+《プラス》だけでは終らせず、精神に於て、男をA、女をBとすれば A+A×B:B+B×Aという風な関係にすると思われます。そして、数学と全然違うところは、これらの関係がまるで逆になって、+《プ・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
出典:青空文庫